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「まあまあ、名前なんか親が勝手に付けるもんだ。あまり言ってやるなよ」
ホス先と呼ばれている人、多分このクラスの担任の先生が、転校生くんの頭にポンと手を置く。
「ホス先も樹茶って名前だもんな・・・・・・。キラキラしてないだけ瑠夏の方がマシか」
「おう、ヤるか? 俺の名前を呼ぶんじゃねェ」
「いてっ・・・!」
ホスト先生が投げたチョークが、件の生徒の額に当たる。
そして、跳ね返ったチョークは、斜め後ろ横に座る俺の方へと向きを変えた。
「軌道がおかしい・・・・・・」
頭に当たったチョークを拾って、先生に返す。
「拾ってくれてありがとな」
「いえいえ。ホーミング性能が凄かったです」
ホスト先生の場所まで戻っていたら、三コンボだったんだけどな・・・。
「ところでお前、皐月か・・・?」
「はい。イエティ歴二年目の皐月です」
「少し見ないうちに大分頭がおかしくなったみたいだな。まあ、久しぶりに顔が見れて何よりだ」
目を細めたホスト先生が、俺の頭に触れる。
久しぶり・・・?
あまりピント来なかったが、俺の一年の頃の担任だと言われ、一度だけ話したことを思い出した。
「髪の毛染めたんですか?」
「いや、あの時は新入生の担当で時間が無かったからな。色が抜けて薄くなってただけだ」
「へぇ・・・俺も染めてみようかな」
中学生の頃に、ピアスと髪染めは高校生から!と、母さんに釘を刺された。
興味無いけど、オシャレは大事だよな。
「お前は落ち着いた色の方が似合うと思うぞ。皐月は清潔感のある正統派イケメンって感じだろ?」
「はい。染める機会があれば参考にしますね」
先生に会釈して、自分の席に戻る。
「そんじゃ俺は職員室に、っと・・・その前に、瑠夏の席を教えてなかったな」
ホスト先生が教室を見渡し、首を傾げる。
俺とバッチリ目が合うと、転校生くんの正面に立って、両肩に手を置いた。
「すまん。お前の席ねェわ」
「なんでだよ!! 空いてる席があるだろ!!」
「あれは仕事で退席している奴らの席だ。リアルにおめーの席ねぇから状態を見るのは初めてだな」
ガシガシと頭をかいたホスト先生が、用事を思い出したと教室を出ていく。
「俺の席が無いなんておかしいだろ!? そこのお前、邪魔だから退けよ!」
「いたいッ・・・! やめてよ・・・っ・・・!!」
転校生くんが、先頭に座る生徒に掴みかかる。
「そういえば俺って、風紀副委員長なんだよなぁ」
海斗兄さん曰く、俺の副委員長という肩書きはただの名義上の役職、つまり名誉職らしい。
喧嘩の仲裁とか、勝手にやっても良いのかな?
「俺に指図するなんて生意気だぞ!!」
拳を振り上げる転校生くん。
わざと大きな音を立てて、席を立つ。
「まあまあ。落ち着きなよ」
「ッ・・・!!」
目を見開いて固まっている隙に、転校生くんの背後に回って腕を掴む。
「俺の隣の席が空いてるから、戻ってくるまで借りたらどう?」
「ぅ・・・っ・・・お前は誰だ・・・!?」
「俺は五十嵐皐月。てか、瑠夏って呼んで良い?」
「皐月・・・ああっ!! 良いぞ!!」
海斗兄さんが言っていた通り、転校生くんは本当に声が大きい。
「俺の教科書は何処だ!?」
「ん? 持ってきてないの?」
「ああ!! 昨日急にここに行けって言われたんだ! パパもママも自分勝手だよな!」
共感を求められ、適当に頷く。
転校生くんは、問題を起こしては転校を繰り返して、遂に全国ブラックリスト出禁になったそうだ。
ここしか、行く宛てが無かったというわけ。
「瑠夏って実は物凄い不良だったりする?」
「な、何言ってるんだ!? 俺は族なんかしてないぞ!!」
「今って不良=族が主流なの? 俺はヤンキーとか想像してたんだけど」
「ああぁぁぁああああ・・・!!」
口元を抑えて、大声で叫ぶ転校生くん。
そんな『しまった!』みたいな顔されても、カマかけたつもりはなかったんだよ・・・。
「俺は気にしないから安心してよ。族でも厨二病でも全然おっけー」
「二人だけの秘密にしてくれよな!! あと俺は中二じゃなくて高二だぞ!!」
「知ってる。今日のところは俺の教科書使って」
「皐月は良い奴だな!!」
差し出した教科書を、奪い取るように勢いよく持っていかれる。
力つよ・・・。フィジカルお化けだ。
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