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その日の夜、私はまたいつもの夢を見て目を覚ました。
あれは間違いなく、大浦崎の海だった。
誰かは誰かを想い続けていた。
水平線は光をたゆたえ、昏い時代を越えて未来に繋ぐように祈った。
何かを握りしめていた。
あれは操縦桿か?
いやその前には何かもっと大切なものを持っていた。
隠した。
あの海はどこだ。
蒼く遠く凪いだ海洋に美しい島々が浮かんでいた。
一緒にいたのは誰だったか。
使われなくなったレールに夏草が繁るように、夢で見ていた景色が埋もれていく。
誰かを待たせていた。
そうだ。あれは手紙を隠した。
あの手紙はどうしたんだったかな。
ポンっとスマホが光って現実に引き戻される。
文乃からだった。
「またいつもの夢みちゃった」
ラインではそう書かれていた。
帰り道に連絡先を交換したのだ。
私たちは同じ夢を同じタイミングで見るらしいとその時はじめて認識した。
そんな旨の内容を返信すると同時に既読がついた。
また眠りに落ちていったのかそれから返信はなかった。私は眠れずに窓の外を眺めた。不思議と気持ちは落ち着いていた。一人じゃないと思えたのだ。
明日またこの夢を調べようと記憶が薄まる前に夢のことを詳細に記録しようと机に座った。すると、旗竿地である実家の少し手前で車が止まった。明朝である。
父だった。
酒に酔っているのか、足元がおぼつかない。
秘書に抱えられそうになるのを横柄な態度で断っている。
荷物を取りに来ただけだったのか、すぐにまた車に乗り込んだ。
久々のあっけない再会だった。
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