誰かの夢

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誰かの夢

 まるで鶏卵のように魂を飲み込んで目を覚ます。  また誰かの夢を見ていた。 「もう何度目だろう」  明けることのない暗闇に目を凝らす。  溶けた夢がじっとりと汗をかいている。    一体いつからだ。  どこの誰だかもわからない他人の夢を見るようになったのは。  あれは高校二年の夏の頃だった。  かつて、あるクラスメイトと他人の夢について調べてまわった。ほつれた糸を辿るような途方もない作業だった。  メタセコイアの森に建つ図書館に通い詰めた。  あの場所は今もあるのだろうか。  帰り道に寄った国道沿いのファミレスや駅からの渡り廊下も、忘れている筈なのにすべて夢の中では鮮明だ。  少し違和感があるが、おそらく故郷なのだろう実家の街に自分ではない他人として立っている夢だ。  何かを探していた。  誰かを待っていた。  一体何度この夢を見ただろう。  夢の中ではいつもあのクラスメイトと再会した。  あの人も今、同じ夢を見ているのだろうか。 「パパー?」 「ごめん。ゆうくん起こした?」 「ううんーこっちきてー」  寝ぼけ眼の息子悠人が腕の中に潜り込んでくる。居心地の良いポジションを見つけてまた寝息をかいた。  先ほどまで浸っていた夢から現実に引き戻される。頭が追いつかない。悠人の背中を撫でながらゆっくりと息を吐いた。絶対に手放せない大切なものをそっと抱きしめた。
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