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シャツのほころびに決意をこめて ①
発情期に似た症状はやっぱり一過性だったようで、自慰で達した後は体が楽になっていた。頭の中もクリアになっていて、これからのことを考えようと思えた。
ただ、両親にも、いつも気にかけてくれる理人のご両親にも心配をかけたくないから、今はまだなにも知らせないでおこうと思う。
時がくれば理人が自分から言うだろうし。
「これのことだけは、調べておこう」
スマートフォンのロックを開け、ブックマーク一覧をタップする。
開いた画面には「つがい解消の投与薬完成」のニュース。新しい関連ニュースが紐づいていて、問い合わせは各自治体の保健所になり、書類申請が通れば補助金が出る可能性もあると掲載されている。
「これなら僕たちでも使えるかも……」
使えれば、理人を罪悪感の日々から解放してあげられる。僕とつがったことで諦めた人生をやり直すことができる。
僕も、つがいのいない発情期に怯えなくてよくなる。
つがいがいるのに、つがいに抱いてもらえないオメガの苦しみは、想像を絶する。
つがいができたことで、つがい以外にフェロモンが作用しなくなる代わりに、抑制剤の効きが鈍くなり、番に抱いてもらうことでしか発情期を収められなくなるからだ。
もし、抱いてもらえなければ精神が少しずつ崩壊し、他のアルファと行為を交わそうものなら、激しい拒絶反応で身体が蝕まれてしまう。
僕たちオメガは、愛されてつがいになることでしか安定した人生を送ることができない弱い生き物だ。だからこそこうして番解消薬の開発が進められてきたんだ。
……だから理人も、運命の彼と出会ったのに僕を投げ出すことができず、抱いてくれようとしたんだろう。
世の中には、ひとりのアルファが複数のオメガと番を結んでいる場合もある。体質のために甘んじてそれを受け入れているオメガもいるけれど、僕は絶対に嫌だ。
愛されていないだけでなく、他に愛する人ができた理人から、憐れみで生かされたくない。
少しでも早く薬が欲しい……。
僕はしばらく画面とにらめっこをして「つがい解消」の文字を何度も心の中で読んだ。
「……よし」
部屋を出て、リビングに出る。理人につがい解消に向けて話し合おうと伝えようと思ったからだ。
でもリビングは真っ暗で、理人はいなかった。
時間は二十三時前。昨日理人はこの時間帯にあのビルにいて、運命のつがいと過ごしていた。
今日もあの場所へ出かけたんだろう。
そうきっと、少し前から会っていたんだ。理人のスマートフォンへのメッセージが頻繁に入るようになったのも、家に帰るのが遅くなっていたのも、そういうことだったんだ。
それなのに「別れてくれ」って僕に言えなかったんだね。ごめんね、理人。でももう大丈夫だから。僕たちきっと、つがいを解消することができるよ……。
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