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その夜も、疲れきっていた僕は理人の帰りを待たずに寝てしまったし、朝は、僕が起きる前に理人は出社した。
理人はスマートフォンに「おはよう。おかゆを冷蔵庫に入れています。食べられそうだったら食べて。洗濯も済ませてあるから、ゆっくりしていてください。今日も遅くなります」とメッセージを送ってきていた。
夜遅くて朝早いのに、また洗濯までして出て行ったんだ。服に彼の匂いが染みついているから僕に気を遣って?
ベランダに出て洗濯物を見る。
僕が干すよりも綺麗に干されている気がして、諦めに似たため息が漏れた。
本当に、僕って理人にとってお荷物でしかなかったんだな、と実感する。
運命の彼に会っていなくても、どうせいつかは別れを言われていたかもしれない。それが怖くてずっと頑張ってきたんだもの。
運命とか関係ないのかもしれない。ただ僕が、理人に愛される存在じゃなかった。それだけのことだ。
「あれ……これ、なんの汚れ……?」
理人のワイシャツの袖の左側に、それなりに大きな茶色の染みが取れずに付いているのが見えた。
「……? 穴も開いてる?」
袖を手に取って見ると、小さいけれど、鋭いものが刺さって破れたような穴がふたつあった。
昨日、仕事か、運命の彼に会ったときになにかあったのかな……。
僕はそのシャツだけをハンガーから取りはずし、穴を広げないよう気を付けながら、シミ抜きを使って袖を洗い直した。
乾いたら縫っておいてあげよう。完全には綺麗にならないかもしれないけれど、せめて少しでも綺麗にしてあげたい。
僕という汚点をできるだけ落とし、僕とつがいとして過ごしたことでできてしまった理人の人生の穴を、少しでも補修するみたいに。
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