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第1話
藤の花が咲く山の方からゆっくりと降りてくるたった2両の電車が見えてきた。さらに右手に朝の少し青みの薄い海の波がゆらりゆらりと穏やかに揺れている。
ガタンゴトンと電車が走る音とカンカンカンと踏切の音が混ざり合って聞こえてきた。だんだん音は大きくなって近づいてくるのがわかる。
この時間は通学と通勤の時間の人達がいるから四十分毎に電車がくる。これを逃せば、次は一時間後だ。
乗らなきゃ……今の電車に乗らなきゃ遅刻しちゃう。学校に行かなくちゃ。
キキーーッと甲高いブレーキ音。シュワーとドアが開く。皆の足が電車のドアに向かっていく。
乗らなきゃ……乗らないと。
駅の前に設置されたベンチに座り込んだまま私は動けなかった。また見送ってしまった。出発してしまった後の駅は静かだった。駅の前を車だけが行き交う。
また行けなかった。学校に……。朝からずっと頭痛のする頭を抱える。膝に学生鞄を載せてうずくまる。
私はやっぱりダメな子だ。涙が滲む。下を向いていると黒い靴と紺色のソックスが涙でユラユラと揺れた。
「えーと……大丈夫?」
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