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エピローグ
翼が半減した天使『…………お出迎え、ご苦労、とお前へ言ってもいいのだろうか? ……私には……私には……わからない。わからないのだ……』
門の前に立っている天使『……そんな言い方はしないでください。私たちは兄弟ではないですか。私は根源の言葉を伝えたまで。……お帰りなさいませ』
翼が半減した天使『……根源に命じられて来たのか?』
天使『…………いいえ。あなたがいつか、ご帰還なさるのを根源は知っていました。私が……自らの意志で来たのです』
翼が半減した天使『…………。…………。自らの意志で来た、か。……お前がそう言うとはな。……私は……堕ちたくて……堕ちたのではない。兄弟よ……』
別の天使『……罪というものはありません。罰というものもありません。……そなたの体験は、拡大を望む根源としても、掛け替えのない経験となったことでありましょう』
翼が半減した天使『……お前まで、出迎えてくれるのか……ウリエルよ』
ウリエル『はい。……私はそなたを待っておりました。根源を除き、そなたほど明晰な御方はおりませぬ。私はそなたと話をしたくて、待っていたのですよ』
天使『さあ、ルシフェル様、門をくぐってください。私たちへあなたが見聞きしてきたことをお教えください』
ルシフェル様、と呼ばれた天使『……ガブリエル、ウリエル……許されるのか、私は? ……私は……同胞の権能を奪い取ってきたのだ……』
ガブリエル『あなたが必要です。……根源はあなたを愛しています。あらゆる存在を通じ、あらゆる経験が必要なのです……私の兄弟』
現れた天使『……下界へ堕ちて、その翼でよく持ちこたえましたね、さすがはあなた様です。他の者ではそうはいきますまい』
ルシフェル『……ラファエル……お前、変わらないな……』
さらに現れた別の天使『私もいます。お忘れか、私の兄弟』
ルシフェル『……ミカエル……まだ剣を握っているのか。……お前も……変わらない。聖なる四大天使の出現か。……昇格したな、お前たち』
ミカエル『はい。……私たちの戦いの結着はすでについています。長よ、済んだことは済んだことです。……危なかったです。もう少しで逆の立場となるところでした。……あなたの光は、とてもとても強力で、そして美しすぎました。……あなたへ打ち勝てたのは奇跡です。私のちからだけではありません。根源のご配慮によるものです』
ルシフェル『……ウリエル……根源は……反乱を起こした私が下界へと逃亡し、それから起きたこと、すべてを知っているのか?』
ウリエル『はい、そうです。……どのような出来事も一つ残さず根源の知るところとなります。そなたはよくご存知でしょうが、根源は全知全能ですので』
ルシフェル『…………。……皆、皆、消えていった……下界へ敗走をはかり、堕ちて残れたのは私だけだ。皆……それぞれが持つちからを私へ譲って……そして、消失していった。……私は、私は、同志のちからを継承してきた。地上には……闇の中では光が必要であった。……そして、私は孤独となった。同志のちからを吸い取り、様々な光を放てるようになっても、私は孤独なままだった。……ここへ……ここへ……戻るだけが、私の願いとなっていった。……私が逃げ出した、ここへ戻りたい、戻りたい、と……そればかりが、私の存在意義に変わっていった。すべては……分離が、選んだ断絶が生み出したもの、そう……幻想だったのだ。……私は私があるのを煩わしいと感じては、厭って、苦しんでは呪った、すると……幻想はますます強まり、戦乱は続いた……終わらない戦闘と混乱が続いた、続いたのだ……光を放つ私の目前で……』
ラファエル『……癒やしましょう、治しましょう、この私が。深い深い傷を宿したあなた様を。……あなた様だけではなく、私たちの兄弟たちを』
ミカエル『……私が剣を手にして来たのは、帰ってきたあなたが門をくぐり抜けてから、再び反逆するのではと考えてのことです。……堕天したとはいえ、あなたを止められるのは我らしかいません。他の者では相手になりません。……我ら四人の前に対峙できるのも、あなたしかいません。他の者は畏れて、ひれ伏します。我ら四人を見つめることすらできません。……たとえ我らであっても、四人でちからを合わせて、ようやくあなたを抑えられます。……あなたの存在は、あなたの光は強すぎて封じ込められず、あなたにはちからがありすぎた。輝く光で、すべてを包み込んで、燃やし尽くし消し去れるちからを、あなたは根源より直接授けられた光輝の頂点に位置する熾天使の長なのです』
ルシフェル『…………よくわかっている。変わらないな……お前の言葉には正しさだけが満ちている。……お前たちが四人で出てきたのもそのためか。…………ラファエルよ、お前はありとあらゆるものを治癒できるだろうか。…………ウリエルよ、お前は明確に裁定し、明快に説明できるだろうか。…………ガブリエルよ、お前は必要なことを必要なときに告げられるだろうか。…………ミカエルよ、お前は強さを誇示するだけではなく、常々公正さを保てるだろうか。……聞くがいい、私の兄弟たち。私の体験はお前たちが想像するよりも遥かに起伏していて、かつてなく濃密で重厚で、色彩に富んでは、はなはだ揺れ動いては跳ねて踊るものだ。……戦域でまみえたお前たちは知っていようが、降り注ぐ光をもってして、自他ともに認めない闇を抱きとめ、いかなる相手も掃滅し、お前たちが熟慮のすえに築き上げた堅固な要塞を攻め立てては完膚無きまでに砕破して、果てしなく広がる天と割れては浮かぶ地へ奇しき虹の橋を架け渡せる私だ。……これは傲りではない。お前たちがお前たちを知るように、私も私を知っている。……できるだろうか、お前たちに。以前の私から言わせれば、下級な御使いであったお前たちに。……こたえよ、私を待っていた、私の兄弟たちよ! ……できるか? お前たちには受け入れる覚悟があるのか!?』
『『『『……はい!! できます。戻ってきてくれたら、私たちはできます!! 教えてください、私たちへ!!』』』』
四人の天使は整列し、声を揃えた。
『…………。……そうか。……そうか、できるのか。……うん。お前たちなら……できるのかもしれないな。……私とは異なり、一人ではないからな。…………。……うん。ならば……帰ろうか……。…………。ありがとう……待っていてくれて…………』
ルシフェルはここで笑い、微笑む四人に手を引かれて門をくぐった。
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