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轍の青女【6】
「…………はぁ〜…………ぁぁ……はぁ〜〜〜」
ため息をついてしまう。
車の外なら白い息になったのだろう。
雪道の走行や運転に疲れてきたのもあるが、胸の中で複数の首をもつ蛇が蠢動し、わたしの内側をさすってくる気がする。
わからない……いや……わからないのか、知りたいのか、知りたくないのか、判断がつかないことがある……そんなことは多いんじゃないのか?
…………出会った人間が別れるのは決まっているのか、人は去ってゆくのか、との問いが漠然と広がってくる。
わたしはもうできる限り、大切な大好きな相手を、愛した者を失いたくはない。
何故かって…………決まっている、心身がつらいではないか。
もしも、わたしが母親となっていて、我が子を何らかの要因で失ったら、どうするのだろう?
…………あの子はいなかったものとして、別の子供を産めばいい、なんて考えるのか?
母親、いや女としての価値を維持するために、子供を利用する?
どれほど、ねじけているのか。
こんな具合に、胸の中では、胴体が一つで首がいくつもある蛇がちろちろと舌を出して舐めてきたり、鋭い牙を柔らかな内部に突き立てて、傷口を作り出し、毒汁を注入したりする。
電話で母は「あたしらの子供はあんたしかいない」と言っていたが、この発言は正確とはいえない。
実は、わたしには妹がいた。
わたしの妹は生まれて何日かで亡くなってしまったのである。
妹は「さやか」と名付けられていた。
高校生になったばかりの頃、このことを父から明かされたわたしは絶句した。
母が一切、それまでにこの件をわたしへ洩らさなかった事実が、さらにわたしへは追い撃ちとなった。
自身が生んだ子がすぐに死去したとの事実が、母には相当応えたのだろう。
「あのとき……うん……おとーさんもだけどさ…………おかーさん、ずっとずっと、泣いてて……何も食べられなくて、眠れなくもなってさ……おかーさん、写真うつすの好きだったんだけど……それもやめちゃったんだよ……で……ゴミ箱にカメラ捨てちゃって……おとーさんが拾って、その、カメラをさ……」との父の言葉がこれを裏書きしていた。
わたしの両親を見る目が、ここから変わった。
母がどこかへふらっと行きたくなる理由もわかった。
父は母を、母は父を理解していた。
母の妹も、わたしからみると、祖父・祖母にあたる人々も、二人へ理解を示していた。
亡くなった妹がいたのをこの時期に知ったから、わたしは早くいろいろ経験してみたいと感じるようになったのではないのか。
……わたしは生きているだけでは、無価値なのだと感じていた。
苦境に追いやられたわたしは、わたしへ価値を付けたかったのだ。
アルバイトをするようになった友達に誘われて、あるときタバコを吸ってみたが、ひどく咳き込んでしまって、吸い続けたいとは考えられなかった。
別の友達が飲んでいたのでわたしも酒を飲んでみたが、他の飲み物よりも格別に美味しい、酔っ払ってみたいとは思えなかった。
興味がわかなかったので髪は染めず、ピアスホールは開けず、万引きはしなかった。
その代わり……彼氏が欲しい、とだけは密かに願っていた。
この願望は「二人目の彼氏」との、うってつけの相手の出現により、成就することとなった。
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