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プロローグ
……わたしのスマホが鳴り出した。
め、珍しい……着信音を聞いたの、何ヶ月ぶりだろうか?
……ん?
……どうしたんだろう?
わたしは画面を目にしてから通話へ応じた。
「……はい」と。
男の声「……あ、あ、ゆうこちゃん? ……ぉおとーさんなんだけんども……」
ゆうこ「……あ……どうかしたの?」
父「……うん。今、でんわ大丈夫かな? 忙しかったら、かけなおすけど……」
ゆうこ「いや、いいよ〜。なに〜?」
父「……あ、あのさーー、おかーさんのスマホなんだけどさぁ……」
ゆうこ「ん……スマホ〜??」
父「うん。どーやら、壊れちまったよーなんだ……すぐ電池切れになっちゃって……」
ゆうこ「え……そうなの? ……画面を指で操作できないの? 下に落として、画面が割れちゃったとかでは、なくて?」
父「いや……画面が割れてはいないんだけど……充電……が、うまくできないっていうか……そんなんで電話も受けられなくて、あの、あれ、その、緑のリーネってやつも……」
ゆうこ「……うんうん。言ってる意味がわかった。待ち受けができないスマホになってしまった、と。……それはきっとさ、内部バッテリーの劣化だろうね。……わたしが父さんと母さんに買ってあげたスマホでしょ? ……別の品?」
父「いやいや……ゆうこちゃんが買ってくれたやつだよ……それ以外にないもん」
ゆうこ「……父さんのも壊れているの? どこか、変になってるの?」
父「ん……うーうん。おとーさんのは平気だよ。だから、今でんわできてるんだ。……おかーさんのだけが、今いったようになってて……」
ゆうこ「……そーか。わかった……んーっと、SIMカードは大丈夫ってことだね。……どのくらい経ってるっけ? 二人にわたしが渡してから……」
父「えーと、どれくらいかな〜〜三年? 四年くらい?? ゆうこちゃんがここに帰ってきてくれたときだから……やーー、細かくはわかんねーな……ぇ……へ!!? ……ぁ、あ、そう、だよ、待って……っ……」
ゆうこ「???」
女の声「……もしもーし、ゆうこ? あんたかい?」
ゆうこ「!! ……ぉ……お母さん? ……い、いたの?」
母「そーそー。なに言ってんの? あたしはここにいる。……もらったお菓子、バウムクーヘンたべてた。……だいたいのとこは、おとーさんから聞いたでしょーけど。……困ってんのよ。それで、あんた、あたしに新しいスマホ、また買ってくんない? ……どう? できる?」
ゆうこ「……ッ!?? へっ、買う? ……なに、わたしが? お母さんに??」
母「そーだって。あたしらの子供はあんたしかいないでしょ? ……あたしにちょうどいいスマホをあんたが買って、ここに持ってきなさいな」
ゆうこ「……あ、あーー、えーーと、それは……わたしがお母さんに別の新しいスマホを一台、買って、それをそっちに持って行って……スマホの設定やアカウントの移行なんかも、やってあげれるのかっていう……ことを、言ってるのぉ??」
母「えーそうそう。お利口さんね〜〜あんたは理解が早くてぇ、助かるわ〜〜」
ゆうこ「…………」
母「……あれー?? もしもし〜〜、ゆうこ〜〜、聞こえてんの〜〜?」
ゆうこ「……ん、うん……聞こえて、いるよぅ……」
母「あーそぅ? ……でーどーなのよ? あたしの言ったこと、わかったのかい? あんた?」
ゆうこ「……や、あーでも、お、お母さん、は……どんなのがいいの? 色とか、メーカーとか……大きさとか……重さも、そのいろいろ、あるじゃない……」
母「は? ……そんなの、どーでもいいって〜〜。使えればいい! あんたに任せるわ……で、どう? ……できそうかい? 買って、持ってこれそう?」
ゆうこ「あ、ああ……ま、まーー、できなくはないけど、うーんと、どうしよっかなぁ……わたしの都合もあるんだけどぉ……ネ……ネットで、買おうっかな……それだと……わたしの家に新しいスマホが届くまで、少しかかると思うよ。……それでもいい? 待っていれる?」
母「あー待てる、待てる! んーじゃ、よろしく〜〜……ん? あ、はいはい……ほれ……」
ゆうこ「……!??」
父「……ゆ……ゆうこちゃん? ……というわけなんだ、ご、ごめんね、本当に……一方的なこと、言っちゃって……」
ゆうこ「う、ううん、いいんだよ、ぁの……ネットで注文して……それが届いたら、そっちに車で向かうね。ほら、家電量販店っていうの? 店舗にはあまり種類が置いてないんだ。……お父さんのも一緒に交換する? まだ壊れてないなら、そのまま使ってる? 今のスマホを……」
父「ん、んんーーー……こればっかりは……ゆうこちゃんに任せる……なんも、おとーさんわかんないからさ、スマホのことは……ただ、二つも買って、ゆうこちゃんは平気かい? ……こっちから電話して、勝手なことばかりいって、ごめんごめん……」
ゆうこ「……ん、うん。わたしは平気だよ。考えがあるんだ。……ネットで見てみて、いいのがあったら、お父さんのやつも選んで買っておくよ。……お母さんの色違いみたいなやつでいいんでしょ?」
父「もちろんだよ!! ゆうこちゃんの思ったままにして……んじゃ、すまないけど……お願いしよーかな。おかーさんのを優先で……」
ゆうこ「わかった。……スマホがこっちに届いて、わたしが……そっちへ出発する前に一度連絡するね」
父「うん。……ゆうこちゃんが来るの、楽しみにしてるよ。おみやげも用意しとくからさ〜」
ゆうこ「うふふ……わたしも楽しみにしてる! じゃーね、お父さーん!」
父「あぁ、じゃーね! ゆうこちゃん!」
…………「ドチラカガ、キトク、スグカエレ」ではなかった。
通話を終えてスマホを机へ置くと、わたしはPCのディスプレイに向かった。
……わたしが知る両親のスマホの使い方からして、それほど高性能な機種は必要ないだろう。
わたしはブラウザを起動し、あるショッピングサイトへとログインした。
注文から何日かしたら、わたしの自宅へ小型の段ボール箱を持った宅配業者が訪れた。
わたしは箱の中身を確認し、カレンダーと時計を見ながら、実家へ連絡を入れた。
そうして、わたしは単身で実家……故郷へと続いている道路に車を走らせた。
道は積雪しており、大小の雪が降ってくる。
それから数時間、わたしは追憶と共に雪道を運転することになった……。
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