第一章 おけつの危機を回避したい

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「おっ。シゲル、お姉さんから『荷物届いた』って連絡きたで」 「ほんま?」     ベッドから身を起こすと、晴海が画面を見せてくれる。「これから成分調べてみるから、続報は待っててね。」とのことやった。ありがたいなあ。……ほっとしたら、尚更気にかかることがあって。 「お礼うっとこー」ってスマホいらっとる背中に、おでこをくっつけた。   「晴海ー」 「おう、どした?」 「おれ、なんか出来ることないかなあ」    部屋返ってきてからも、怒っとる大橋と、落ち込んでる桃園。二人を心配しとる山田の顔が、頭から離れへんねん。  晴海はスマホおいて、おれと顔を合わせた。   「おれな、楽しかったらええかなあって。ほんで、喫茶店でもええやて思っててん。……大橋らの気持ち、なんも考えてへんかったなあ、て……」    かあーって耳が熱くなる。  おれ、自分がいっぱい参加してたからって、軽く考えてたんかもしれへん。リーダーやって、みんなを率いてくれてた三人のショックは計り知れへんよな。  しおしおと項垂れとったら、肩をポフンと撫でられた。   「それを言うたら、俺かて同罪やろ。決まったからには楽しまな損やって、秒で切り替えた男やで?」 「あっ、ごめん! そんなつもりやなくてっ」    慌てて首を振ったら、晴海は苦笑する。   「わかっとる。ただな、シゲルだけの気持ちやないってことを、言いたいわけ。俺も、竹っちも。上杉と鈴木も、同じこと思ってるから。一人で抱えんでええ」 「晴海……」    優しい声で言われて、目が潤む。   「晴海、おれな。大橋と桃園と、山田ともっぺん話しあいたい。何ができるか、わからへんけど……」 「このまま、ほっときたくないもんな。みんなで色々、考えてみよか!」 「うん!」    晴海は二っと笑って、握りこぶしを突き出した。おれも笑って、晴海にぎゅっと抱き着いた。    「ありがとう、晴海。大好きや!」 「おう、そうか。ははは」    晴海に話してよかった! いっつもな、気持ちがスーッと楽になって、「もう大丈夫や」って思えるねん。  背中をバンバン叩いて、身体を離す。   「よっしゃ。じゃあ、ちょっとスーパー行って来るわな」    鞄から財布を取り出して、スマホと一緒にポケットにねじ込んだ。晴海は目を丸くする。   「え。今からか?」 「ちょっと、欲しいもんあるねん。パッと行って帰ってくるから」 「せやったら、俺も――」 「あかーん! お弁当の材料やから、ネタバレ厳禁。なんやったら、お風呂入っててええよ。じゃっ」    ついてこようとする晴海を振り切り、おれはスーパーへ向かった。            寮に併設されてるスーパーは、二十四時間営業してるねん。お米も、たこ焼きの粉もお安く売ってる、学生の味方なんやで。  おれはカートを押しながら、スマホのメモの通りに買い物をする。  昨日はオムライスして、今日はおにぎりやったから。  ついに明日こそ、とりの唐揚げにチャレンジすんねん。油も買ったし、とりもムネとかモモとか、ようわからんかったけど買った。ブロッコリーも買った。あとは、まぶしたら美味しくなる粉だけやねんけど……   「唐揚げ粉。唐揚げ粉……たこ焼きの粉のとこでええんやろか?」    ごろごろカート押しながら歩いとったら。前方に、食材の山盛り入ったカートを発見する。  辺りをキョロキョロ見回してみるも、持ち主っぽい人はおらへん。   「お会計の前っぽいし、忘れ物ってことはないと思うけど……生もの入っとるし、ええんやろか?」    何となく放っとけず、うろうろしとったら「あー!」と黄色い叫び声が響いた。  嫌な予感に、ギクッ! と背中が引きつる。   「――それ、俺のカートですっ!」    振り返ると、やっぱり愛野くんやった。どどど……って駆け寄ってきて、おれとカートとの間に体を割り込ませる。それから、やっとおれに気づいたみたいで、キッと睨んできた。   「今井じゃん。人の荷物、じろじろ見るなよなっ?」 「えっ、ごめん」    反射的に謝ってから、「いや、そんな怒らんで良くない?」とムッとした。   「なんもしてへんよ! ただ、こんなとこに置いてあったから、何かと思って」 「な……! やっぱ、何かするつもりだったのか?」 「ちょちょちょい! なんでそうなんの!?」    おれ、なんもしてへんって言うたよな!? 話の飛躍が半端ないんやけど。  怖くなって、ずざざと身を引いた。――その拍子に、おれの肘が愛野くんのカートにコツンと接触した。カートは、積まれとったダン箱のほうに滑っていく。   「あっ!」    しもた! 慌てて手を伸ばして、カートを捕まえた。――ふう、危ない。息を吐いた瞬間、ドンッとつき飛ばされる。   「ぎゃっ!」     どてっ、と尻もちをつく。  見上げた愛野くんは、眉をつり上げて怒鳴った。   「何すんだよっ?! 食材が入ってるんだぞ! 俺だけじゃなくて、勇士とレンも食べるのに!」 「ご、ごめ……」 「さいってーだな!」    ふん! と息を吐いて、愛野くんはカートをコロコロ押して行ってしもた。   「ええ~……」    おれは、色んな意味で泣きたい気分で、その場にへたり込んだ。    
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