第一章 おけつの危機を回避したい

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第一章 おけつの危機を回避したい

「この世界、BLゲームらしいで」 「はあ?」    おれの言葉に、晴海(はるみ)はSwitchから顔を上げた。  放課後、「レトロゲーム部」の部室である被服室には、おれと晴海の二人だけ。まあ、最初から二人しかおらんねんけどな。晴海は床に、おれは教壇に転がっている。   「なんやそれ。どういう意味?」 「いや。この前、おれの姉やんが自転車に轢かれて、骨折ったやん? そんときに、姉やんが前世の記憶を取り戻したらしくてな」 「待って。全然わからん」    晴海はSwitchを放り出し、床から起き上がる。おれの隣に腰掛けると、続きを欲してきた。   「あのなあ――」    おれは胸をはって、喋り始めた。           「シゲル、大変よ。ここは、BLゲームの世界なの」    ミカン持って見舞いにいったら、ヤブから棒に姉やんが言うたわけ。おれは、首を傾げた。   「姉やん、折ったん頭の骨やっけ?」 「違うわよ!」    姉やんは、額に青筋を立てた。怒りんぼやなあ。でも、元気そうで良かったわ。へらへらしながら、ベッドの脇の椅子に腰掛けると、姉やんはぷりぷりしとった。   「……言っとくけどね、言わないでおく選択肢もあったのよ。私にとっては黒歴史なんだから。それでも喋るのは、あんたを可愛い弟と思ってのことよ?」 「ふんふん。姉やん、ミカンどこ置く?」 「今食べるから、ベッド。……じゃなくて、真面目に聞きなさい! 私の言うとおりにしなきゃ、大変なことになるんだから!」       「何なん? 大変なことって」 「それは今から言うから、聞いといてや」    晴海は、欠伸しながらうなずいた。すでに飽きてるやん。        ――姉やんは、サイドボードから紙を取り出した。   「ここはBLゲーム、『聖✚薔薇十字(セイント・ローズクロイツ)学園』の世界なの」 「いやそれ、おれの行ってる学校の名前ちゃう」 「そうなのよ。何となく、聞いたことあると思ってたんだけどね……まさか、前世の記憶とは思わなかったわ」 「やば! 姉やん、前世の記憶あんの?」 「思い出したの、この事故がきっかけでね! 口挟まないで、ちゃんと聞いてよ」    姉やんが言うには、こういうことらしい。  ここは、姉やんの前世が知ってたBLゲームの世界で。姉やんは、事故って足の骨折った拍子に、前世の記憶を取り戻したんやって。  そんで、おれがゲームの出演者なんやそう。すげぇやんな。   「マジで?! おれ、ええ感じの役?」 「いや、全然」 「え~!」    話を聞いてくと、上がったテンションがどんどん落ちてゆく。  一言で言うと、おれ悪役らしいねん。  それもジョーカーとか、モリアーティみたいなんやったらええけど、めっちゃ脇役なんやって。言うてしもたら、「一般生徒A」とかそんな感じ。   「したら、なんも関係ないやんけ。BL言うても、おれ何もすることあれへんのやろ?」    なんや、つまらん。  せっかく目立つと思ったのになー。明らかテンションさがったおれに、姉やんがかっと目を見開いた。   「それが、そうじゃないの! 何故かって――」       「……晴海、聞いとる?」 「おー。聞いとる聞いとる」    いや、Switch再開してるし、明らか聞いてへんやん。  おれはムッとして、晴海に馬乗りになって、Switchを奪う。引き締まった腹にドカッと座り込むと、晴海が急に慌てだす。   「おっわ! 何すんねん」 「真面目に聞いてや、晴海のアホ!」 「アホはお前や! 早よどけ、エライことなんぞ!」 「はあ~?」    なんや、わけわからんこと言うて。  ぎゃあぎゃあ喚く晴海に、腹が立つ。  こいつ――幼馴染の一大事より、Switchが大事なんか? おれは、この悲しみをわからしたろうと思って、晴海の胸に手をついて。 「ゲームしとる場合やないで! このままやったらおれ――おけつに人参突っ込んで、死ぬまでオナニーする羽目になるんやぞ!」    めっちゃ、大声で叫んだ。 「なるんやぞ……やぞ……」とハウリングして、その最後の響きが消えたとき、晴海がガバッと身を起こした。   「――なんやてえ?!」    うわ。  真っ黒い目に、爆発的なエネルギーが迸ってるやん。びっくりしてると、晴海はおれのおけつを鷲掴みにした。   「痛あ!?」 「お前のケツが、そんな酷いことになるんか? 何で、早よ言わへんねん!」 「言うたやろ、今!」    痛い、痛い! ぐにぐにせんとって!   「わかった。お前のケツを守るためやったら、一肌脱ぐで」 「もう……アホやんお前……」    人参の前に、おけつもげるかと思ったわ。  ひりひりするおけつを擦りながら、おれは事の仔細を話し始めた――    
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