第一章 おけつの危機を回避したい

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「うーん。からあげは難しいかなあ……でも、あとおにぎりやったら……」 「何やってんだ、今井?」 「ひゃあ!?」    スマホとにらめっこしとったら、箒を持った竹っちがのぞき込んできた。やば、掃除さぼってたんバレた。慌てて立ち上がると笑われる。   「いいよ。どうせ、裏庭なんて掃除するとこねえんだし。それより、ラブラブだな?」 「えっ、なにがさ」 「それ。『彼氏の喜ぶお弁当』」 「ああっ!」    スマホの画面を読み上げられて、顔が火照る。さっそくやる気になってんの、見られてしもた。モゴモゴ言うとったら、竹っちが肩を抱いてきた。   「照れんなよー。俺達、お前らが上手くいって嬉しいんだぞ」 「へ?」 「なあ、どっちから告ったん? やっぱ、有村から?」 「えっ? ちゃうちゃう! お、おれから、つきあってって言うてん」    慌てて、否定する。ここはキチンと言うとかな、晴海に悪すぎるからな。竹っちは、目をまん丸にする。   「へえ、意外だなあ」 「そ、そんなことないやろ。ずっと一緒にいるんやし……」    へどもどと俯いたとき、黄色い叫び声が聞こえてきた。   「だーかーら! 俺はあいつと関係ないんだって!」    びっくりして見に行ったら、校舎裏の壁にひっついて愛野くんが怒鳴っとる。その周りをぐるっと囲んでるんは、美少年とゴリラたちやった。竹っちが、声を潜めて言う。   「ありゃ、会計の親衛隊だぜ」 「ええっ」    生徒会はめっちゃモテるから、「親衛隊」ってファンクラブがあるんやで。めっちゃ過激で、抜け駆けしたらボコボコにしばかれるって噂のある怖いとこや。   「あー早速だ。愛野のやつ、昼休みに食堂でやらかしたからな……」 「え、なにを?」 「あいつ、授業は出なかったくせして、ちゃっかりメシは食いに来てさぁ。しかも、生徒会専用席に座っちゃったんだよ。周りが止めても、「こんなに混んでるのに、独り占めとか変だ」って聞かなくて」 「やば。ほんまに?」 「おう。そしたら、生徒会が来てさー。会長が愛野を追い出そうとしたのを、会計が庇ったわけ。「この子は俺のかわいい子だからー」って。もう、食堂は阿鼻叫喚だよ!」 「うわあぁ」     おれはゴクリと唾を飲む。  そりゃ、親衛隊は愛野くんにカンカンのはずや。もしかしたら……後ろのゴリラを使って、愛野くんをボコボコにするつもりかも。  え、えらいとこに行きあってしもたで! おれは、竹っちの肩をゆすぶる。   「ど、どうしよ! 止めやなあかんよな……!?」 「待て! 俺らが行っても、ボコされるだけだよ。先生でも呼んで来よう」 「あ、そうか! じゃあ、すぐっ」    おれらが、慌てて先生を呼びに行こうとしたときやった。  愛野くんが、「うるせー、あばよ!」と親衛隊を怒鳴りつけた。そして、全速力でこっちに駆けてくる。あっ、と思ったときには――    ドンッ!   「いたっ!」 「ぎゃ!」 「今井!」    おれと愛野くんは、正面衝突していた。「いてて……」とおけつを擦っとった愛野くんは、おれを見てハッとなった。   「お前、もしかして……俺が囲まれてたの、ずっと見てたのか?」 「えっ? ちゃうねん。偶然見てしもただけで……」    オロオロと口にすると、愛野くんはキッと睨みつけてきた。   「さいってーだな、お前……! 生憎だけど、俺はそうそうやられたりなんかしねーからっ!」 「へっ?」    ど、どういう意味? ぎょっとしてたら、竹っちが目を吊り上げる。   「ばっきゃろう! 今井は助けを呼ぼうと――」 「ちょっと、邪魔なんだけどー」    そのとき、おれの後ろから冷たい声が響いた。恐る恐る振り向くと――無表情の会計が立っとった。  やつは、青ざめるおれの横を過ぎて、親衛隊の方へ歩んでいく。   「い、い、今井、大丈夫か?」 「う、うううん」 「さっきの、会計だよな? ヘラヘラしてねえと、誰かわかんねーな」 「たしかに」    竹っちの手を借りて、立ち上がりながら――おれは嫌な予感に苛まれていた。  愛野くん親衛隊に絡まれる・からの・会計登場。なんか、イベントっぽい気がするねんけど……?    「ちょっと、お前達。なにしてるの?」 「あっ、レン様! これは違うんです――」 「俺のお気に入りに手を出すって、何様? もう、顔も見たくないんだけど」 「そんな……待ってください、レン様!」 「うるさい。消えて」 「……っうわああん」 「優姫(ゆうき)くん!」    リーダーっぽい美少年が、会計の言葉に泣き伏した。仲間たちが駆け寄って、背中を擦ってる。竹っちが呆然と、「親衛隊長って、会計のセ……フレンドじゃなかったっけ」と呟いた。うそお……友達にあんな感じなんや。  一方、会計は愛野くんに向き直ると、にこにこと腕を広げた。   「(てん)ちゃん、怖かったねぇ。もう大丈夫だよー?」    態度ちがいすぎるって! ドン引きしとったら、愛野くんは会計を睨みつけた。   「お前のせいだろ! お前が俺にキ……スしやがって、妙なことを公言すっから、変な奴らに絡まれたんだ!」 「ごめんねぇ。でも俺、天ちゃんのこと気に入っちゃったから。あいつらには、きつくお仕置きしとくから。ね?」 「うっせーっ!」    ハグされそうになって、愛野くんは両腕をぐるぐる振り回した。   「あの優姫ってやつ、お前のこと好きだって言ってたぞ! お前の恋人だって! 俺は、下半身のだらしねえ奴はだーいっ嫌いだ!」 「!」    愛野くんの言葉に、会計は傷ついたような顔をした。愛野くんは、バタバタと走り去って行く。  何なんこれ……。呆然としとったら、取り残された会計がこっちを見た。能面みたいな顔に、おれと竹っちは竦み上がる。   「――消えろよ。俺、苛々してるから、殺すかもよ?」 「はい!」    おれらは飛び上がって、脱兎のごとく逃げ出した。   「やばいやばい! 何だよあいつ!」 「……ううう~!」 「泣くな、今井! 大丈夫、俺らみたいなモブ、すぐ忘れるよ!」    竹っちが、励ましてくれる。  でも、違うねん。悪役モブのおけつは、助からへんねん……!  あれ、絶対イベントや。また、ルート進んでしもた。せっかく、お弁当で嬉しいきもちやったのに!   「うわ~、晴海~!」 「ああ、大丈夫だって! お前の彼氏、教室掃除だから! すぐ会えるから!」  
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