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「うーん。からあげは難しいかなあ……でも、あとおにぎりやったら……」
「何やってんだ、今井?」
「ひゃあ!?」
スマホとにらめっこしとったら、箒を持った竹っちがのぞき込んできた。やば、掃除さぼってたんバレた。慌てて立ち上がると笑われる。
「いいよ。どうせ、裏庭なんて掃除するとこねえんだし。それより、ラブラブだな?」
「えっ、なにがさ」
「それ。『彼氏の喜ぶお弁当』」
「ああっ!」
スマホの画面を読み上げられて、顔が火照る。さっそくやる気になってんの、見られてしもた。モゴモゴ言うとったら、竹っちが肩を抱いてきた。
「照れんなよー。俺達、お前らが上手くいって嬉しいんだぞ」
「へ?」
「なあ、どっちから告ったん? やっぱ、有村から?」
「えっ? ちゃうちゃう! お、おれから、つきあってって言うてん」
慌てて、否定する。ここはキチンと言うとかな、晴海に悪すぎるからな。竹っちは、目をまん丸にする。
「へえ、意外だなあ」
「そ、そんなことないやろ。ずっと一緒にいるんやし……」
へどもどと俯いたとき、黄色い叫び声が聞こえてきた。
「だーかーら! 俺はあいつと関係ないんだって!」
びっくりして見に行ったら、校舎裏の壁にひっついて愛野くんが怒鳴っとる。その周りをぐるっと囲んでるんは、美少年とゴリラたちやった。竹っちが、声を潜めて言う。
「ありゃ、会計の親衛隊だぜ」
「ええっ」
生徒会はめっちゃモテるから、「親衛隊」ってファンクラブがあるんやで。めっちゃ過激で、抜け駆けしたらボコボコにしばかれるって噂のある怖いとこや。
「あー早速だ。愛野のやつ、昼休みに食堂でやらかしたからな……」
「え、なにを?」
「あいつ、授業は出なかったくせして、ちゃっかりメシは食いに来てさぁ。しかも、生徒会専用席に座っちゃったんだよ。周りが止めても、「こんなに混んでるのに、独り占めとか変だ」って聞かなくて」
「やば。ほんまに?」
「おう。そしたら、生徒会が来てさー。会長が愛野を追い出そうとしたのを、会計が庇ったわけ。「この子は俺のかわいい子だからー」って。もう、食堂は阿鼻叫喚だよ!」
「うわあぁ」
おれはゴクリと唾を飲む。
そりゃ、親衛隊は愛野くんにカンカンのはずや。もしかしたら……後ろのゴリラを使って、愛野くんをボコボコにするつもりかも。
え、えらいとこに行きあってしもたで! おれは、竹っちの肩をゆすぶる。
「ど、どうしよ! 止めやなあかんよな……!?」
「待て! 俺らが行っても、ボコされるだけだよ。先生でも呼んで来よう」
「あ、そうか! じゃあ、すぐっ」
おれらが、慌てて先生を呼びに行こうとしたときやった。
愛野くんが、「うるせー、あばよ!」と親衛隊を怒鳴りつけた。そして、全速力でこっちに駆けてくる。あっ、と思ったときには――
ドンッ!
「いたっ!」
「ぎゃ!」
「今井!」
おれと愛野くんは、正面衝突していた。「いてて……」とおけつを擦っとった愛野くんは、おれを見てハッとなった。
「お前、もしかして……俺が囲まれてたの、ずっと見てたのか?」
「えっ? ちゃうねん。偶然見てしもただけで……」
オロオロと口にすると、愛野くんはキッと睨みつけてきた。
「さいってーだな、お前……! 生憎だけど、俺はそうそうやられたりなんかしねーからっ!」
「へっ?」
ど、どういう意味? ぎょっとしてたら、竹っちが目を吊り上げる。
「ばっきゃろう! 今井は助けを呼ぼうと――」
「ちょっと、邪魔なんだけどー」
そのとき、おれの後ろから冷たい声が響いた。恐る恐る振り向くと――無表情の会計が立っとった。
やつは、青ざめるおれの横を過ぎて、親衛隊の方へ歩んでいく。
「い、い、今井、大丈夫か?」
「う、うううん」
「さっきの、会計だよな? ヘラヘラしてねえと、誰かわかんねーな」
「たしかに」
竹っちの手を借りて、立ち上がりながら――おれは嫌な予感に苛まれていた。
愛野くん親衛隊に絡まれる・からの・会計登場。なんか、イベントっぽい気がするねんけど……?
「ちょっと、お前達。なにしてるの?」
「あっ、レン様! これは違うんです――」
「俺のお気に入りに手を出すって、何様? もう、顔も見たくないんだけど」
「そんな……待ってください、レン様!」
「うるさい。消えて」
「……っうわああん」
「優姫くん!」
リーダーっぽい美少年が、会計の言葉に泣き伏した。仲間たちが駆け寄って、背中を擦ってる。竹っちが呆然と、「親衛隊長って、会計のセ……フレンドじゃなかったっけ」と呟いた。うそお……友達にあんな感じなんや。
一方、会計は愛野くんに向き直ると、にこにこと腕を広げた。
「天ちゃん、怖かったねぇ。もう大丈夫だよー?」
態度ちがいすぎるって! ドン引きしとったら、愛野くんは会計を睨みつけた。
「お前のせいだろ! お前が俺にキ……スしやがって、妙なことを公言すっから、変な奴らに絡まれたんだ!」
「ごめんねぇ。でも俺、天ちゃんのこと気に入っちゃったから。あいつらには、きつくお仕置きしとくから。ね?」
「うっせーっ!」
ハグされそうになって、愛野くんは両腕をぐるぐる振り回した。
「あの優姫ってやつ、お前のこと好きだって言ってたぞ! お前の恋人だって! 俺は、下半身のだらしねえ奴はだーいっ嫌いだ!」
「!」
愛野くんの言葉に、会計は傷ついたような顔をした。愛野くんは、バタバタと走り去って行く。
何なんこれ……。呆然としとったら、取り残された会計がこっちを見た。能面みたいな顔に、おれと竹っちは竦み上がる。
「――消えろよ。俺、苛々してるから、殺すかもよ?」
「はい!」
おれらは飛び上がって、脱兎のごとく逃げ出した。
「やばいやばい! 何だよあいつ!」
「……ううう~!」
「泣くな、今井! 大丈夫、俺らみたいなモブ、すぐ忘れるよ!」
竹っちが、励ましてくれる。
でも、違うねん。悪役モブのおけつは、助からへんねん……!
あれ、絶対イベントや。また、ルート進んでしもた。せっかく、お弁当で嬉しいきもちやったのに!
「うわ~、晴海~!」
「ああ、大丈夫だって! お前の彼氏、教室掃除だから! すぐ会えるから!」
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