第一章 おけつの危機を回避したい

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「いやー、笑った。お前ら、これからも刺しつ刺されつ頑張れよ!」 「君たちを見てたら、僕も自分のイチモツを思い出したよ。受験もあるし、吹っ切るように頑張るね」  ほんでな。   怒り心頭の会計が立ち去ったあと、ギャラリーの人らが応援してってくれてん。  ほんで、優姫くんを始めとする美少年たちも、なんやスッキリした様子でそう言うててな。かわるがわる手ぇ握ってくれてから、「バイバーイ」って歩き去ってったんよ。  へらへらして手を振り返しながら、晴海を振り返る。   「なんか、ようわからんけど。みんな笑ってくれて良かったなー」 「まあ、終わりよければ全てよしや」    晴海は、にっと笑っておれの肩を抱く。   「よう頑張ったな、シゲル。こんだけかましといたら、また物語も歪むやろ!」 「晴海ぃ……ありがとう!」    温かい励ましに、胸がじんとする。会計にぶつかったときは、どうなることかと思ったけど。晴海が来てくれて、ほんまに心強かったんやで。   「さっきのがイベントやったかは、またお姉さんに聞くとして。とりあえず、教室戻ろか?」 「そうやね」    おれらは、てくてくと来た道を戻った。   「そういえば、話し合いはどうなったんやろ」 「すぐ飛び出してきてしもたからなぁ」    実行委員を愛野くんがやるとか、アレ、どういうことやったんやろうな。  でも、委員替えとか無理なことくらいわかるで。うちのクラスには、藤崎って実行委員がいるし、ずっと頑張ってくれてるんやから。  そう思って、ガラっと教室の戸を開けた。すると――   「ごめん、良太! 俺が必ず祭りを盛り上げるから!」 「ちょっと悔しいけど。天使のほうが、俺よりうまく出来ると思うっ!」    机を全部壁際に寄せて、リングみたいになった教室のど真ん中。  藤崎と愛野くんが、熱い抱擁を交わしていた。二人とも汗だくで、清々しい笑顔や。 ――え、何この状況?   ぎょっとしてたら、机の陰にしゃがんどる竹っちらを発見する。おれらはこそこそと駆け寄った。   「今井、有村! 戻って来たか!」 「竹っち、これどうなってんの?」    尋ねると、上杉と竹っちが顔を見合わせる。   「それがさあ。藤崎と愛野が、実行委員の座をかけてタイマンしたんだよ」 「タイマン!?」 「なんかよ。愛野を実行委員にって、会計が推したらしいんだよな。ほら、会計は愛野にお熱だし。実行委員って、生徒会室に入れるじゃん? 「一緒に居る大義名分」ってことじゃねえの」 「くだらんすぎるやろ」    晴海が瞠目する。鈴木も頷いた。   「なまじ、生徒会命令だから先生も断れなかったらしい。でも、そんなん大人の都合だし。俺らだって、納得できねえじゃん。特に、四月からずっと頑張ってきた藤崎のことを思えばさ」 「そうやんなあ」    鈴木のいうのは、ほんま最もやと思う。  おれらの意見を全部まとめて、会議に出してさ。どんだけ、藤崎が頑張ってくれてたか……。   「そしたら、愛野が「不満があるなら、タイマンで勝負しよう」つってよ。昭和のヤンキーじゃあるまいしって思ってたら、藤崎が「やってやらあ!」って乗っちまってさー」 「あいつ、普段落ち着いた奴なのに、よっぽどムカついてたのかね……で、さっきまで殴り合って、やっと決着ついたとこ」 「ちなみに、愛野の勝ち」  三人がなんとも言えへん顔で、なんとも言えへん経緯を話してくれた。 「なるほど。……あいつらは、なんで抱き合ってるん?」  渋い顔で聞いとった晴海が、一番気になることを聞いた。 「知らね。喧嘩して、なんか通じ合ったとかじゃねぇ?」    竹っちが虚無を見るような目を、クラスの中心で健闘をたたえ合う二人に向けた。  藤崎は熱に浮かされたみたいな顔で、愛野くんをギューしとる。「天使には脱帽だ!」って繰り返し震え声で叫んでて、度肝を抜かれた。ほら、ふだん硬派なやつやから……。 「……」  クラスメイトの反応は二分されてて、感動してる人七割、ボー然としてる人三割って感じ。おれらは、後者の方な。   「まあ、一番悔しいはずの藤崎がええなら、それでええんかな……」 「そうだな……」    晴海がまとめると、みんなが頷いた。
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