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「いやー、笑った。お前ら、これからも刺しつ刺されつ頑張れよ!」
「君たちを見てたら、僕も自分のイチモツを思い出したよ。受験もあるし、吹っ切るように頑張るね」
ほんでな。
怒り心頭の会計が立ち去ったあと、ギャラリーの人らが応援してってくれてん。
ほんで、優姫くんを始めとする美少年たちも、なんやスッキリした様子でそう言うててな。かわるがわる手ぇ握ってくれてから、「バイバーイ」って歩き去ってったんよ。
へらへらして手を振り返しながら、晴海を振り返る。
「なんか、ようわからんけど。みんな笑ってくれて良かったなー」
「まあ、終わりよければ全てよしや」
晴海は、にっと笑っておれの肩を抱く。
「よう頑張ったな、シゲル。こんだけかましといたら、また物語も歪むやろ!」
「晴海ぃ……ありがとう!」
温かい励ましに、胸がじんとする。会計にぶつかったときは、どうなることかと思ったけど。晴海が来てくれて、ほんまに心強かったんやで。
「さっきのがイベントやったかは、またお姉さんに聞くとして。とりあえず、教室戻ろか?」
「そうやね」
おれらは、てくてくと来た道を戻った。
「そういえば、話し合いはどうなったんやろ」
「すぐ飛び出してきてしもたからなぁ」
実行委員を愛野くんがやるとか、アレ、どういうことやったんやろうな。
でも、委員替えとか無理なことくらいわかるで。うちのクラスには、藤崎って実行委員がいるし、ずっと頑張ってくれてるんやから。
そう思って、ガラっと教室の戸を開けた。すると――
「ごめん、良太! 俺が必ず祭りを盛り上げるから!」
「ちょっと悔しいけど。天使のほうが、俺よりうまく出来ると思うっ!」
机を全部壁際に寄せて、リングみたいになった教室のど真ん中。
藤崎と愛野くんが、熱い抱擁を交わしていた。二人とも汗だくで、清々しい笑顔や。
――え、何この状況?
ぎょっとしてたら、机の陰にしゃがんどる竹っちらを発見する。おれらはこそこそと駆け寄った。
「今井、有村! 戻って来たか!」
「竹っち、これどうなってんの?」
尋ねると、上杉と竹っちが顔を見合わせる。
「それがさあ。藤崎と愛野が、実行委員の座をかけてタイマンしたんだよ」
「タイマン!?」
「なんかよ。愛野を実行委員にって、会計が推したらしいんだよな。ほら、会計は愛野にお熱だし。実行委員って、生徒会室に入れるじゃん? 「一緒に居る大義名分」ってことじゃねえの」
「くだらんすぎるやろ」
晴海が瞠目する。鈴木も頷いた。
「なまじ、生徒会命令だから先生も断れなかったらしい。でも、そんなん大人の都合だし。俺らだって、納得できねえじゃん。特に、四月からずっと頑張ってきた藤崎のことを思えばさ」
「そうやんなあ」
鈴木のいうのは、ほんま最もやと思う。
おれらの意見を全部まとめて、会議に出してさ。どんだけ、藤崎が頑張ってくれてたか……。
「そしたら、愛野が「不満があるなら、タイマンで勝負しよう」つってよ。昭和のヤンキーじゃあるまいしって思ってたら、藤崎が「やってやらあ!」って乗っちまってさー」
「あいつ、普段落ち着いた奴なのに、よっぽどムカついてたのかね……で、さっきまで殴り合って、やっと決着ついたとこ」
「ちなみに、愛野の勝ち」
三人がなんとも言えへん顔で、なんとも言えへん経緯を話してくれた。
「なるほど。……あいつらは、なんで抱き合ってるん?」
渋い顔で聞いとった晴海が、一番気になることを聞いた。
「知らね。喧嘩して、なんか通じ合ったとかじゃねぇ?」
竹っちが虚無を見るような目を、クラスの中心で健闘をたたえ合う二人に向けた。
藤崎は熱に浮かされたみたいな顔で、愛野くんをギューしとる。「天使には脱帽だ!」って繰り返し震え声で叫んでて、度肝を抜かれた。ほら、ふだん硬派なやつやから……。
「……」
クラスメイトの反応は二分されてて、感動してる人七割、ボー然としてる人三割って感じ。おれらは、後者の方な。
「まあ、一番悔しいはずの藤崎がええなら、それでええんかな……」
「そうだな……」
晴海がまとめると、みんなが頷いた。
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