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放課後――寮の自室に戻って、おれと晴海は姉やんに連絡を取った。
『はーん。始まったわねえ』
会計とのやり取りを聞いて爆笑していた姉やんは、愛野くんが実行委員になったことを話すと、感慨深げに唸った。
『「ばらがく」は学祭を成功させるってのが、全ルート共通のタスクなんだけど。愛野くん自身がリーダーするのは、会計ルートだけなのよ。いやー、思い出深い。無理に実行委員にされたのに、クラス皆に反発されてさー、悪役モブにも妨害されちゃって! ウザかった会計が、次第によく見えてくる不思議だったわー』
「へえー、そうなんや」
頷いてから、「あれ?」てなる。
「もしかせんでも、その妨害してくる「悪役モブ」っておれのことやんな?」
『うん、そうよ』
「やっぱり……。でもおれ、なんも悪いことするつもりないで?」
基本的に、クラスで決まったことは、そのまま乗っかって楽しむタイプやもん。胸張って言うたら、「主体性無いもんね、シゲル」て、何気にディスられた。ひどい。
「てことは、お姉さん。今まで以上に、振る舞いに気ぃ付けた方がいいですね」
頭を撫でてくれながら、晴海が言う。
『ええ。シゲルにそのつもりが無くても、愛野くんに悪く取られちゃうかもだから。出来る限り、愛野くんには関わらないように。でも、協力的にハキハキ動いて! できる?』
「わかった!」
姉やんの喝に、おれは敬礼する。
それやったら出来る。おれ、行事ごととか企画はできひんけど、参加すんのは好きやから。クラスでやる展示品つくりも、夏休みだって皆勤賞やし!
「お前、好きやもんなあ。あーいうの」
「楽しいやんか。そういう晴海も、毎回一緒に出てたやろ?」
「誰かさんが、毎朝起こしに来たもんでー」
「何をっ」
びすびすと腕を突っつきあっとったら、姉やんが咳払いした。
『愛野くんにも注意が必要だけど。もう一人、注意するのは藤崎くんね。彼は、タイマン勝負で負けたことで、愛野くんに心酔しちゃってるの。愛野くんに不利になりそうなものには、常に目を光らせてる。ゲームでは頼りになったけど、敵だと厄介だわ』
「わかりました。……あの、お姉さん。ちょっと考えてたんですけど。この先の物語の展開を、細かく教えてもらう事ってできます? 具体的に何を避けたらええんか知っといたら、手が打ちやすいと思うんですけど」
晴海の提案に、目からうろこが落ちた。
確かに、そうやん! ゲームだって、攻略本見てやったほうがうまくいくんやし。姉やんに、全部教えといてもらったら、よっぽど安全やんか。
『悪いけど、それは出来ないわ』
「えー、なんでっ!?」
おれは、スマホにがばぁと身を乗り出した。晴海も怪訝そうにしとる。
「理由聞いてええすか?」
『これ系のネット小説でね。フラグ回避をしようとするとき、余り知りすぎていない方が上手くいくの。私が思うのに――フラグ回避をしていくごとに、物語は変わっていくでしょう? ってことは、話が変わるほど、元の知識は役に立たなくなるわ。「こう来たらこう」とか、「あれしたから、次はこうなるはず」とか、知識に拘ると、返って身動きできなくなるんだと思う』
「……なるほど。知っとるせいで、臨機応変に動けへんようになるってことか」
晴海は息を吐いた。
『そうそう。だから、大まかに「破滅の原因」だけ避けて、オリジナリティ出してった方がいいと思う。「高慢ちきが原因で死んだなら、いい子になる」、「家族に裏切られて死ぬなら、家を出る」くらいにね。シゲルの場合は』
「バカップルのふりして、愛野の行動を邪魔せず、化学教師から距離を取る、くらいがええっちゅうことですね」
姉やんの言葉を、晴海が引き継いだ。ようわからんけど、つまり……
「これからも、イベントがいつ何時くるか、わからんままなんやな……」
おれは、がっくりと肩を落とす。あれ怖いから、避けれるもんなら避けたかったぞ。
すると、晴海にガシッと肩を抱かれる。
「シゲル、大丈夫や。俺も一緒やからな。何が来ても、今日みたいに立ち向かおう!」
「晴海……!」
なんて心強いんや……! 肩に乗った手をギュッと握り返し、おれは笑う。
『じゃあ、そういうことで! 明日から、怒涛の日々だと思うけど、二人とも頑張って。さっき言ったこと、くれぐれも守ってね』
「わかった!」
姉やんに、おれらは元気よく頷いた。
しかし――
「おい、今井! どうしてサボるんだ!? ちゃんと参加してくれよっ!」
「サボってへんもん!」
困難は、予想を常に超えてくるんやなあ……。
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