第一章 おけつの危機を回避したい

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「ううう」 「元気だせ、今井~」    机に突っ伏しとったら、皆が背中叩いてってくれる。励ましが胸に沁みるで……。  結局、あの後も愛野くんの誤解は解けへんかってん。  涙ながらに、「協力してくれ!」って言われたのが、決めてやったんかなあ……。皆で「サボってない」って弁解するほど、どんどんドツボになってしもて。  最終的に、クラスメイト達にも「意地張らないで、一緒にやろうよ!」って言われたねん。  なんでなん?   「おれら、最初から一緒にやってきたやんっ」  「気持ちはわかるぞ。まあ……桃園達が、わかってくれてるんが救いやな」 「そうそう。他の奴らに、一緒に作業してたって言ってくれてるみてーだぞ」 「ほんま?!」    晴海と上杉の言葉に、がばっと顔を上げる。桃園、ありがとう……!  ほっと胸を撫で下ろしてたら、竹っちが口をとがらせる。   「でも、藤崎の奴もひでーよな。なんで、俺らが聞きにいったこと、言ってくんねーんだろう」 「確かになあ。公平なあいつらしくねえ」    鈴木も神妙に頷いた。  泣いてる愛野くんの肩抱いて、睨んできた藤崎を思い出す。あいつも、おれらがサボってたって、ホンマに思ってるんやろか。  思わず、全員黙り込む。姉やんが、「藤崎は敵になると手ごわい」って言うてたけど……でも、四月から、ずっと同じ教室で過ごしてきたんやで。なんか、行き違いがあるだけやんな?   「まあ、サボってた思われるんも業腹やし。今後は誰なっと、別のグルの奴に声かけていこか」 「だな」    晴海の言葉に、皆が頷いた。      で、放課後――  おれらは、トリックアート班のみんなと一緒に、大橋の部屋にいくことになってん。って言うのも、手伝いに行ったら、「今日は活動終わりで、見舞いに行く」とのことで。   「大橋がいないのに、仕上げちゃうわけにいかないし。やっぱり、心配だから」     って、桃園と山田が穏やかな笑顔で言う。苦楽を共にしてきた美術部は、ほんまに仲がええ。「俺らも行っていいか」って聞いたら、快くOKしてくれて。コンビニで差し入れ買って、ついてった。   「ほんと、やってらんねえよ。俺らに全部まくっといて、今さら喫茶店したいとか。クラスの奴等、全員死ね」    出迎えてくれた大橋は、額に青筋を立てて怒っていた。止まらない貧乏揺すりで、ローテーブルがガタガタ音を立てる。  美術の特待生の大橋は、一人部屋らしい。所狭しと、スケッチブックや画材が置いてあった。  凄まじく重い空気の中、おれらはおろおろと立ち尽くす。竹っちが、差し入れを渡すタイミングを見失い、袋を何度も上下させていた。  と、桃園が「こらこら」とたしなめる。   「悔しい気持ちはわかるけど。クラスメイトに、死ねなんて言っちゃダメだよ」 「ふん。そもそも、俺は合作なんかしたくなかったんだ。コンクールの絵にかける時間だって、割いて参加させられて。そんで、後から迷惑みてえに言われて、やってらんねえよ!」    桃園と山田が、悲しそうな顔をする。   「そんなこと言わないで。頑張ってたの、みんな知ってるよ」    おれらも、桃園に続いて感謝を伝える。   「そ、そうやで!」 「お前達がいたから、すっげえ作品が出来たしさ……!」    大橋は、自嘲気味に呟く。   「知らねえよ。今日だって……訪ねてきたのは、お前らだけだ。転校生どころか、藤崎の奴も来やがらねえ」 「大橋……」    結局、うまい励ましも出来んまま、差し入れだけ置いて、退出することになった。  一人残ってくらしい桃園が、悲しい顔で言う。   「ごめんね、皆。せっかく来てくれたのに」 「え、いやいやいや! 逆に、俺らの方こそ、なんも出来なくて」    上杉が、ぶんぶん手を振る。おれらも、口々に励ましたけど桃園は落ち込んでるみたいやった。  帰り道、山田に聞くとこによると。美術部の中でも、特に大橋と桃園は仲がええんやって。   「俺なんかエンジョイ勢だけどさ、あの二人はガチなんだ。特に、大橋は芸術肌だからさあ。クラス行事自体、乗り気じゃなかったの、桃園が説得したんだよ。だから、今回のこと責任感じてんじゃねえ?」 「そうやったんや……」    そういう事情やったん、全然知らんかった。「わーい楽しー」って浮かれてた自分が、ちょっと恥ずかしい……。俯くと、晴海の手にわしわし頭をかき回される。顔上げたら、晴海の真剣な横顔があった。   「俺らに出来ることあったら、言うてくれ。一緒に悩ませてほしい」 「そうだぜ! ずっと一緒にやってきたんだし!」 「ここまで来たら、みんなが楽しまねえとさ」 「お前ら……ありがとう。伝えとくわ!」    山田が、ニカッと笑った。    
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