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姉やんが言うには、『聖✚薔薇十字学園』……通称『ばらがく』には、攻略キャラが六人おるんやって。もちろん、BLやから全員男。主人公の背負った業、重すぎるよなあ。
ほんで、六人の野郎におけつを狙われる、不運な主人公の名は、愛野天使くんって言うらしいねんけど――
「なんて？」
「愛野天使くんって言うらしいねんけど」
「歯ぁガタガタなりそうな名やな。そこまで来て、タカシと読ます工夫がまた……」
「おい、人の名前やぞ」
「すまん、つい。続けてくれ」
「どうぞどうぞ」のポーズをする晴海を横目に、おれは口を開く。
――主人公の愛野くんは、季節外れに転校してくるらしいねん。
そんで、六人のイケメンと恋に落ちるそうな。その内訳は、「生徒会長・副会長・書記・会計・風紀委員長・同室の不良」。
エッチなハプニングに遭ったり、悪者にいじめられたりしながら、最終的にイチャラブになるんやって。
まあまあ、王道の話やんな？
「せやな。ほんで、お前のケツはどう関連してくんの？」
「うん……これ、１８禁のほのぼのエッチゲームなんやけど。バッドエンドでは凌辱されるらしいねん」
「なにその裏表」
愛野くんは、ゲームの終盤、悪者に捕まってしまうんやって。そいつらを、愛の力でやっつけれたら、目出たくハッピーエンドになるらしい。でも――やっつけれへんかったら、バッドエンド。そのまま、ひどい目に遭わされるそうや。
そらもう、薬漬けにされたり、犬にされたり……恐ろしいよな。
「ほんで、おれは会計ルートの脇役で登場するらしいねん。廊下でぶつかった愛野くんに因縁付けてるとこ、会計に追っ払われるんやって」
「はは、わかりやすい噛ませ犬や」
「黙り。そんで、愛野くんのことを逆恨みしたおれは、会計に敵対する勢力に利用されてしまうねん。なんでも、男泣かせの会計は、あっちこっちの彼氏に手を出して恨みを買ってたんやって」
「恐ろしい男やな。ん？ そういや、うちの会計もそんなんか」
せやねん。そういう人間性の符合があるさかい、恐ろしいんやないか。
「話し戻すけど――会計を特に恨んでんのが、化学教師の眼鏡。付き合ってた生徒を会計に取られて、復讐に燃えてんねんて。自作のめっちゃすごい媚薬ローションを使って、愛野くんのおけつを破壊し、犯そうとする」
「恐ろしい男やなあ……」
遠い目をする晴海の腕を、おれはガシッと掴んだ。
「せやろ？ おれは、そいつの媚薬ローションの実験台にされるんやって！ ゲーム終盤――化学教師に拉致られた愛野くんが目を覚ますと、人参をおけつに突っ込んだおれが、頭おかしなってんのに遭遇するらしい……！」
――姉やんは、興奮気味に語ってくれた。
「すごいでしょ？ かつて自分に絡んできた奴が、人参を突っ込んでまで、ケツ穴でオナニーしてるのよ？ 媚薬の恐ろしさが、この上なく伝わると思わない？」
「知らんよ！」
媚薬より何より、嬉しそうにしてる姉やんが怖いんやわ。
思い出して、ブルブル震えとったら、晴海が肩を抱いてくれた。
「お前の姉ちゃんのヘキは置いといて――そいつぁ、えらいことやな」
「そうやねん……」
しかも、愛野くんと違って――おれのおけつは、会計ルートの時点で十死零生やぞ。ひど過ぎや。
「しかしや。それ、まだ決まってはないぞ」
「えっ？」
おれは、晴海の言葉に顔を上げた。
「どういう事？」
「たしかに――シゲルの姉ちゃんの言うてるゲームは、俺らの通ってる学園に酷似してると思う。名前以外にも、生徒会とか、目立つ奴らに男どもがキャーキャー言うてるとこもな。でも、一番だいじな要素が抜けてるやんけ」
「……あっ！」
おれは、自分の目が輝くのを感じた。晴海はパチン、と指を鳴らす。
「そう、転校生！ 愛野とかいう奴が来たなんて、知らんやろ？」
「ほ、ほんまや！ 聞いたこともないわ！」
「な？ やから大丈夫や。お前のケツは守られたで」
「晴海～！」
「シゲル～！」
おれは、晴海と抱き合って喜んだ。
そうやんな。よう考えたら、BLゲームに転生とか、そうそうありえへんやんな！
それから、一緒にSwitchやって、寮に帰って飯を食って。姉やんに抗議の電話かけたった。
「あのなあ、姉やんはネット小説の読みすぎよ。事故って怖かったんなら、おれも話くらい聞けるしさ」
『かまってちゃんみたいに言わないで！ ――知らないわよ！？ 忠告したわよ！？ BLゲームの強制力、なめたら怖いんだから！』
「はいはい」
『きーっ！』
まったく、姉やんは子供なんやから。
生温かい笑みを浮かべて、電話を切った翌日。
「転校生の、愛野天使ですっ！ みんな、仲良くしてくれよな！」
人生で初めて、顎外れそうなったわ。
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