第一章 おけつの危機を回避したい

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『ほーっら、ごらん! 私の言った通りになったでしょ?』    電話越しに、姉やんの高笑いが聞こえてくる。   「やから、ごめんて言うてるやん!」    あのな。  休み時間――晴海と二人、被服室に引っ込んで作戦会議をしててんな。  もちろん、議題は転校生・愛野くんのことやけど。おれらBLとか知らんし、すぐに行き詰ってしもたんよ。  で、今後のアドバイスを求め、姉やんに電話をかけてみることにした。そしたら、昨日のことを根に持っとったんか――姉やんの勝ち誇りが、えぐいんですわ。   「姉やん、どうしたらええの? おれ、おけつ破壊されるの嫌やねんけど」 『んー? でも、私の思い違いかもしれないしねえ。事故のせいで、単位のやばい授業もあるし……』    姉やん、ひどい。弟のおけつがどうなってもええんか。  べそかきそうになっとったら、晴海に肩をつつかれる。え、何? 「スピーカーにせえ」?   「あの、すんません。お姉さん?」 『ひえっ?』 「お久しぶりです。俺、よう一緒にポケモンやらしてもろた、晴海ですけど。覚えてます?」 『あっ、えっ。はっ晴海くん? あはは、久しぶり。シゲルがお世話になってははは」 「姉やん、なんで笑ってんの?」 『黙れ! いきなりDKと話したら、誰でもこうなるわよ! ていうか、シゲルあんた、このこと晴海くんに』 「言うたけど」   「があっ!」と一声叫んで、それっきり。姉やんは謎にしおらしなってしもた。  ここぞとばかり、晴海は畳みかける。   「シゲルのことなんすけど。ほんまに、やばいんすか。まだ、会計のルートに入ったとは限らんすよね?」    ん? どういうこと。  首傾げとったら、ゲームの話で復活したらしい姉やんが、答える。   『――残念ながら、ほぼ確だと思う』 「その心は?」 『シゲルと晴海くんが、関西弁だから……』 「は?」    おれと晴海は顔を見合わせる。   『……『ばらがく』は、安いゲームのせいか――モブキャラの使いまわしが凄いの。シゲルの立ち絵も、茶髪の不良っぽいイケメンでね。「一般生徒B」になって「あの転校生ならいけっかも」と言ったかと思えば、同室の不良の「友達」になって「お前、最近楽しそ」って声をかけたり、大活躍よ』 「えー。おれ、そんなモブ顔なんや」 「めっちゃ可愛いで?」 「きしょ! 何言うてん」 『ちょっと、聞いてよ!? 大事なとこだから。この茶髪不良モブはね――会計ルートで出てくるときだけ、ちょっと個性がついてるの。名前が「シゲル」で、黒髪の優等生風イケメンのモブを連れてて』 「黒髪の優等生でイケメン? 俺やん」 「自分で言うんかい」 『しかも、二人とも関西弁よ。他みんな、標準語なのに関わらず』 「俺らやん」 「おれらやな」    言われて見れば、不思議なことや。おれも晴海も関西出身ちゃうのに、何故かこんな喋り方なんよな。家族は普通に標準語やのに。だれも突っ込まへんからこのまま来とるけど。  姉やんいわく、それもまたこの世界がゲームであることの証左らしい。ゲーム内の常識は、作者がおかしいと思わない限り、まかり通ってくそう。   『シゲルと晴海くんが関西弁で、いつもつるんでるでしょ? 茶髪モブにそんな個性がつくのは会計ルートだけよ。だから』 「俺らのキャラ付けがこうなっとる以上、会計ルートに足踏み入れとるいう事っすか」    姉やんの言葉に、晴海が神妙に頷く。   「それじゃ、おれは人参を突っ込むしかないん?」    おしまいやん。しょげとったら、晴海が電話を掴み上げて、言う。   「お姉さん、どうもならんのですか」 『その前に、聞くけど――主人公とは、まだ一言も話してないのよね?』 「はあ。俺らのクラスに、今日来たとこなんで」 『なら、大丈夫。これから、シゲルの尻破壊フラグを、片っ端から叩き折って行くわよ』  姉やんは、自信たっぷりに言いきった。  
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