第一章 おけつの危機を回避したい

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 会計ルートが、開始してしもたで。   「んも~、どないしょ」    おけつ破壊の、カウントダウンが聞こえてきたやん。  テーブルに突っ伏して悶えとったら、隣でちゃんぽん食ってた晴海が言う。   「シゲル、始まってしもたんはしゃーない。また作戦、練り直そう」 「……おけつ、助かるかな?」 「おう、大丈夫や! 俺が絶対、お前のケツを守ったる」 「晴海ぃ……!」    頼もしい言葉に目が潤む。おれらは、ひしと抱き合った。  気を取り直したおれは、メシを食った。ちなみに、定食はホイコーローや無くて、ちゃんぽん麺やったで。たっぷり入っとった人参は、ぜんぶ晴海にやった。       『もー、何やってんのよ!』    放課後の、被服室。  姉やんに電話でことの次第を話したら、めっちゃ怒られた。   『なーんで、そこで叩いちゃうかな! 自分から藪をつつくようなもんでしょ?!』 「だって! いきなり腹パンされて、ムカついてんもん」 『言い訳しない! もう、状況一気に不利じゃないのよっ』    ぷりぷりしとる姉やんに、さすがにばつが悪くなってまう。しゅんと俯いたら、晴海が援護射撃してくれた。   「せやけど、お姉さん。あいつ大分おかしいすよ。自分でぶつかっといて、被害者面でシゲル殴ってきましたから」 「えっ、そうやったん?」 「おう。俺、前向いてたから、よう見えたで」    晴海いわく、愛野くんは何を急いでたんか、廊下を全力疾走してたらしい。そんで、おれにぶつかって、文句言われて逆切れしたように見えたって。当たり屋やんか。  唖然としてたら、姉やんが「あー」と呻いた。   『愛野くんは、ちょっと思い込みの激しいタイプなの。シゲル、見た目ちょっと不良っぽいしさ。関西弁で怒られて、因縁付けられたと思ったんじゃない?』 「何それ! おれ、不良ちゃうよ。茶髪も地毛やもん!」 『わかってるわよ、パッと見の印象の話。でも、そっか。よく思い出せば、ゲームの時もそんなのだったわね……うーん、ちょっと厄介かもしれない』 「どういう事っすか?」    晴海が、怪訝そうに聞く。   『最初のイベントは、今二人から聞いたのと、まるで同じ流れなの。でも――視点が違うだけで、被害者と加害者がガラッと変わるのね。ゲームをプレイしてるときは、怖い関西弁のヤンキーに立ち向かう美少年って感じだったのに……二人から聞いたんじゃ、まるで愛野くんが当たり屋なんだもの』 「でも、ほんまの事やで?」 『それは疑ってない。私が言いたいのは……シゲルの行動が全部、悪事に「される」可能性があるってことなの』 「え~……なにそれ?」    おれは全然わからんねんけど、晴海はなんか納得したみたい。難しい顔で言う。   「お姉さん、ゲームの「シゲル」が愛野に絡むのは、これっきりっすか?」 『ううん。「シゲル」は、ことあるごとに愛野くんと揉めるわ。大抵、愛野くんが会計のことを考えてるときに、ぶつかってきてね。「ちゃんと前見て歩け」とか、「会計の彼氏やからって、ごめんも言わんのけ」とか、因縁をつけてくるんだけど……』    そこに、ある時は会計が割って入ったり。またある時は、恋に悩む愛野くんが泣いたりして。おれは、恋愛の「噛ませ犬」としての役割をいかんなく発揮するそう。知らんがな。   「何にせよ、大した悪事やないですね」  憮然とした晴海の言葉に、姉やんは電話口で苦笑したみたいやった。   『プレイ中は、気づかなかったけどね……それにしても――困ったわ。これじゃあ、一番勝算が高い「作戦?」が使えない』 「ええっ!?」    勝算が下がる=おれのおけつのピンチやんけ。姉やんは、神妙に話し出す。   『ネット小説で、悪役に転生して破滅フラグを回避するとなると。取れる選択肢は、大まかに二つよ。自分を破滅させる「主人公」と――?戦って勝つか、?友達になるか。?は無理だし、?を推したかったのに……』 「なるほど……愛野があれじゃ、きついっすね」 『そうなのよ』 「だから、どういうことなん?!」    二人で納得しやんといて! 晴海の腕をグイグイ引っ張って、説明を頼んだ。   「つまりやな。シゲルは愛野と敵対してることで、酷い目に遭うやろ? やから、愛野と友達やったら、その運命が変わるかもと思ったわけ」 『「悪役モブ」から「主人公の友達」にジョブチェンジしちゃおって思ったの。でも、今日の様子じゃ、無理ね』 「えっ、なんで?」 『愛野くん、すでにシゲルを「悪者」と思ってるじゃん。あんたに賢い立ち回りは期待出来ないし……半端に関わったら、逆にフラグを回収しちゃうかも』    今日みたいにね、と姉やんは締めくくる。晴海も、難しい顔で黙り込んでしもた。   「ちょお待って。じゃあ、作戦?はあかんの? 戦って勝つ」 『あんた馬鹿だし、顔以外とりえないじゃない。学園改革して生徒会役員をリコールとかできる? それとも、会計に溺愛されそうな予感でもあるの?』 「ひどい!」    刺々しい口調に胸を貫かれる。ばったりと倒れ込んだおれをキャッチして、晴海が言った。   「お姉さん。もう手は無いんですか!」 『そうねぇ。ないことはない』 「――ホンマに!?」    希望の目で、姉やん(スマホ)を見る。すると、姉やんが咳払いをした。   『シゲル、助かるためなら何でもするのね?』 「うん! 当たり前やん!」 『わかった。じゃあ――今日からあんたは、晴海くんの恋人よっ!』  姉やんの声が、「恋人よ……びとよ……」とハウリングし、その最後の響きが消えたとき―― 「はぁぁ?!」  おれと晴海は同時に叫んだ。  
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