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会計ルートが、開始してしもたで。
「んも~、どないしょ」
おけつ破壊の、カウントダウンが聞こえてきたやん。
テーブルに突っ伏して悶えとったら、隣でちゃんぽん食ってた晴海が言う。
「シゲル、始まってしもたんはしゃーない。また作戦、練り直そう」
「……おけつ、助かるかな?」
「おう、大丈夫や! 俺が絶対、お前のケツを守ったる」
「晴海ぃ……!」
頼もしい言葉に目が潤む。おれらは、ひしと抱き合った。
気を取り直したおれは、メシを食った。ちなみに、定食はホイコーローや無くて、ちゃんぽん麺やったで。たっぷり入っとった人参は、ぜんぶ晴海にやった。
『もー、何やってんのよ!』
放課後の、被服室。
姉やんに電話でことの次第を話したら、めっちゃ怒られた。
『なーんで、そこで叩いちゃうかな! 自分から藪をつつくようなもんでしょ?!』
「だって! いきなり腹パンされて、ムカついてんもん」
『言い訳しない! もう、状況一気に不利じゃないのよっ』
ぷりぷりしとる姉やんに、さすがにばつが悪くなってまう。しゅんと俯いたら、晴海が援護射撃してくれた。
「せやけど、お姉さん。あいつ大分おかしいすよ。自分でぶつかっといて、被害者面でシゲル殴ってきましたから」
「えっ、そうやったん?」
「おう。俺、前向いてたから、よう見えたで」
晴海いわく、愛野くんは何を急いでたんか、廊下を全力疾走してたらしい。そんで、おれにぶつかって、文句言われて逆切れしたように見えたって。当たり屋やんか。
唖然としてたら、姉やんが「あー」と呻いた。
『愛野くんは、ちょっと思い込みの激しいタイプなの。シゲル、見た目ちょっと不良っぽいしさ。関西弁で怒られて、因縁付けられたと思ったんじゃない?』
「何それ! おれ、不良ちゃうよ。茶髪も地毛やもん!」
『わかってるわよ、パッと見の印象の話。でも、そっか。よく思い出せば、ゲームの時もそんなのだったわね……うーん、ちょっと厄介かもしれない』
「どういう事っすか?」
晴海が、怪訝そうに聞く。
『最初のイベントは、今二人から聞いたのと、まるで同じ流れなの。でも――視点が違うだけで、被害者と加害者がガラッと変わるのね。ゲームをプレイしてるときは、怖い関西弁のヤンキーに立ち向かう美少年って感じだったのに……二人から聞いたんじゃ、まるで愛野くんが当たり屋なんだもの』
「でも、ほんまの事やで?」
『それは疑ってない。私が言いたいのは……シゲルの行動が全部、悪事に「される」可能性があるってことなの』
「え~……なにそれ?」
おれは全然わからんねんけど、晴海はなんか納得したみたい。難しい顔で言う。
「お姉さん、ゲームの「シゲル」が愛野に絡むのは、これっきりっすか?」
『ううん。「シゲル」は、ことあるごとに愛野くんと揉めるわ。大抵、愛野くんが会計のことを考えてるときに、ぶつかってきてね。「ちゃんと前見て歩け」とか、「会計の彼氏やからって、ごめんも言わんのけ」とか、因縁をつけてくるんだけど……』
そこに、ある時は会計が割って入ったり。またある時は、恋に悩む愛野くんが泣いたりして。おれは、恋愛の「噛ませ犬」としての役割をいかんなく発揮するそう。知らんがな。
「何にせよ、大した悪事やないですね」
憮然とした晴海の言葉に、姉やんは電話口で苦笑したみたいやった。
『プレイ中は、気づかなかったけどね……それにしても――困ったわ。これじゃあ、一番勝算が高い「作戦?」が使えない』
「ええっ!?」
勝算が下がる=おれのおけつのピンチやんけ。姉やんは、神妙に話し出す。
『ネット小説で、悪役に転生して破滅フラグを回避するとなると。取れる選択肢は、大まかに二つよ。自分を破滅させる「主人公」と――?戦って勝つか、?友達になるか。?は無理だし、?を推したかったのに……』
「なるほど……愛野があれじゃ、きついっすね」
『そうなのよ』
「だから、どういうことなん?!」
二人で納得しやんといて! 晴海の腕をグイグイ引っ張って、説明を頼んだ。
「つまりやな。シゲルは愛野と敵対してることで、酷い目に遭うやろ? やから、愛野と友達やったら、その運命が変わるかもと思ったわけ」
『「悪役モブ」から「主人公の友達」にジョブチェンジしちゃおって思ったの。でも、今日の様子じゃ、無理ね』
「えっ、なんで?」
『愛野くん、すでにシゲルを「悪者」と思ってるじゃん。あんたに賢い立ち回りは期待出来ないし……半端に関わったら、逆にフラグを回収しちゃうかも』
今日みたいにね、と姉やんは締めくくる。晴海も、難しい顔で黙り込んでしもた。
「ちょお待って。じゃあ、作戦?はあかんの? 戦って勝つ」
『あんた馬鹿だし、顔以外とりえないじゃない。学園改革して生徒会役員をリコールとかできる? それとも、会計に溺愛されそうな予感でもあるの?』
「ひどい!」
刺々しい口調に胸を貫かれる。ばったりと倒れ込んだおれをキャッチして、晴海が言った。
「お姉さん。もう手は無いんですか!」
『そうねぇ。ないことはない』
「――ホンマに!?」
希望の目で、姉やん(スマホ)を見る。すると、姉やんが咳払いをした。
『シゲル、助かるためなら何でもするのね?』
「うん! 当たり前やん!」
『わかった。じゃあ――今日からあんたは、晴海くんの恋人よっ!』
姉やんの声が、「恋人よ……びとよ……」とハウリングし、その最後の響きが消えたとき――
「はぁぁ?!」
おれと晴海は同時に叫んだ。
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