第一章 おけつの危機を回避したい

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 おけつを守るため、親友(♂)の彼女になった。  って、どえらい矛盾を孕んでるようやけど。BL好きの姉やんいわく、これが最善策なんやから、頑張るほかない。   「シゲル、ほな行くで!」 「わかった!」    差し出された晴海の手を、ぎゅっと握る。やっぱり、恋人同士と言えば、おてて繋いで登下校は基本やろ、と言うことで。  おれらは固く手を繋ぎ、登校中の生徒の群れに進撃した。  ぶっちゃけ、恥ずかしかったんは最初だけ。そもそも、仲良しの手ぇ握るくらい、肩組むのとそんな変わらんわけやから。つないだ手をぶんぶん振りながら、晴海に話しかける。   「なあなあ、晴海。おれらカップルに見えるかな?」 「おう、バッチリや。どう見ても初々しいカップルやろ」 「よっしゃ!」    おけつ破壊が一歩遠のいた気がして、気分ええ。へらへらしとったら、晴海もなんか嬉しそうやった。  てか、なにげ、気づいたんやけど。おれら以外にも、手つないどる奴けっこうおるねんな。さすがBLゲームやね。  手ぇつないだまま教室にはいったら、友達の竹っちが目ぇまん丸にして寄ってきた。   「何よお前ら、どうしたの。ついに付き合いだしたわけ?」    なんでやねん。  と、突っ込みかけて、慌てて口をチャックする。  おれは、晴海と繋いだ手を、顔の高さに掲げた。友達に嘘言うのは心苦しいけど、おけつにはかえられへん。   「そうそう。おれら、付き合うことになってん!」 「へー、おめでとう! やったじゃーん、有村」 「馬っ……! シーッ、言うんやない!」    竹っちは満面の笑顔で、晴海の肩を叩いた(有村て、晴海の名字な。ちなみに、おれは今井やで)。晴海は、くわっと目を見開いてどつき返してた。……何のことやらわからんくて、首傾げとったら「なになにー?」って、友達がわらわら寄ってくる。   ほんで、「付き合ってんねん」「おめでとう」の流れがリピートされてやね。みんな、普通に受け入れてくれて、ほっとしたけど。   「なあなあ、何が「やったな、有村」なん?」 「ええ? そりゃ、お前」 「なあ? 苦節十二年の情熱がさあ」    竹っちに聞いたら、ニヤニヤしながら上杉と小突き合っとる。鈴木は訳知り顔で、晴海を顎でしゃくるのみ。   「晴海~、なんなん?」 「あー。うーん。それは内緒のさくらんぼ」 「ぷぷ。何それ」    晴海に聞いても、なんかずっとモゴモゴしとる。眉毛八の字ぃにして、珍しく困っとるから、一限の数学に話題を変えた。おれ、きづかいの出来る彼女やな。  ほんで、みんなで課題の話をしとったら、教室に愛野くんが飛び込んできた。   「やべー、遅刻ーっ!」    なぜか、窓から。   「今井、危ない!」    アッと思ったときには、遅かった。愛野くんの靴の裏が、迫ってくんのが見える。――あかん、避けれへん! 覚悟してぎゅっと目を瞑ったら、思いっきり体が引っ張られた。   「シゲル!」   ――どんがらがっしゃん!    机やらなにやら、吹っ飛ぶ音がして。教室内が、にわかに騒然となった。   「今井! 有村!」 「おうい、生きてっか!?」    友達が駆け寄って来る。   「シゲル、大丈夫か?! 痛いとこないか?!」 「はわ……」    た、助かった……?  おれは、床に倒れた晴海の上に抱えられとった。ドキドキする心臓を宥めながら、糊のきいたシャツにすがる。   「は、晴海ぃ~! 死ぬかと思った!」 「かわいそうになぁ……! どこも、怪我してへんか?」    真摯に聞かれて、こくこくと頷いた。竹っちが「良かったなあ」と安堵の息を吐く。   「いてててっ!」    甲高い声が、聞こえてきた。振り向くと、倒れた机の上で、愛野くんが痛そうにおけつを擦っている。   「あの……大丈夫?」  近くにいた生徒が、恐る恐る尋ねる。 「……おう、へっちゃら!」    愛野くんは、痛そうなのを堪えて、ニカッと笑う。拍子に、おっきい目から、涙がぽろっと零れ落ちた。声をかけた生徒は「かわ……」と呟き、頬を赤らめる。   「……愛野、立てる? 良かったら、保健室に連れてくよ」 「サンキュ。 お前いい奴だな!」    そいつと愛野くんは、連れ立って教室を出て行こうとする。ポカンとして見送ってたら「おい!」と声を上げたもんがおる。   「お前が窓から来るから、今井が危なかっただろ!」    竹っちやった。上杉と鈴木も、「そうだそうだ」と続く。みんな、おれのために……。ジーンとしとったら、愛野くんがぱたぱた駆け寄ってきた。――警戒した晴海が、おれを抱えて後ずさる。  すると、愛野くんはペコっと頭を下げた。   「ごめんな、大丈夫?!」 「えっ、うん……」 「いやー、急いでて。次から気を付けるから」   ……アラ、素直やん。  気持ちのいい謝罪に、びっくりする。  てっきり逆切れとか、されるかなあって思ってた。ちょっと反省しながら、「そんなら、ええよ」とへらへらしとったら。   「あ、言っとくけど、わざとじゃないからな! 確かに、昨日お前に殴られたけどさ。仕返しとか、そういう陰湿なこと、俺嫌いだし!」    と、くそでかい爆弾を落とされる。  愛野くんの声は、教室はおろか廊下にまで響き、こだまのように遠のいていった。   「……え。ちょっと、どういうこと?」 「今井が、愛野を殴ったの? なんで?」    ひそひそと、クラスのあちこちで声がする。  ご、誤解や……! 叫びたくても、びっくりし過ぎて声が出えへん。本人は言うだけ言って、保健室に行きよった。ずるい。   「あ、あいつ。悪魔や……」 「あうあう」    晴海のゾッとしたみたいな呟きに、半泣きで頷くしか出来んかった。    
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