#01 魔法使いには、もうなれない

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#01 魔法使いには、もうなれない

 入学式を翌日に控え、ついにレットラン魔法学校の入寮日がやってきた。  生まれ育ったアブニールの森を陽がのぼる前に出発し、汽車と馬車を乗りついで7時間。クルミが正門をくぐるころには、すでに多くの生徒が入寮手続きを終えていた。  クルミにとっては悪夢のような合格発表から1ヶ月。合格を喜ぶおばあちゃんと過ごすうちに、クルミの心が晴れつつあったのは事実だ。  しかし、せっかく前を向きかけた気持ちは、学校が近づくにつれふたたび暗くぬりつぶされてしまった。クルミは今もまだ、マ組に落ちたことを受け入れられないでいる。 「入学おめでとう」 「手続きはこちらです」  笑顔で新入生を迎える先輩たちには目もくれず、さっさと入寮手続きを済ませる。指定されたのは、2階のいちばん奥にある2人部屋だ。  玄関を入ってすぐの階段をのぼると、配達された荷物がせまい廊下のあちこちに積まれ、その間をぬうように、たくさんの生徒が行き来していた。  クルミの荷物で一番重いのは、入学前にだされた課題だ。あとは、着ている服を含めた最小限の着替えと、おばあちゃんが編んでくれたブランケットにブラシとタオル。手持ちのリュックとカバンにおさまる量しかない。  入寮にあたり唯一不安だったのが、個室のない共同生活だ。勉強ばかりしてきたクルミには、友だち付き合いの経験がほとんどない。人里(はな)れた森のなかでおばあちゃんと2人暮らしをしていたため、幼馴染(おさななじみ)と呼べるような友人も、一緒に登下校できるような知人もいたことがない。  だから、ルームメイトがマキ=クミールだとわかったときは、心の底からほっとした。合格発表で倒れたクルミを介抱してくれたマキは、とても明るく社交的な性格で、交友が苦手なクルミでもすぐに打ち解けられたほどだ。  リュックを人にぶつけないよう気を付けながら、どうにか女子棟2階奥の自室にたどり着く。控えめに部屋をノックするが、返事はない。  まだマキは来ていないのか――クルミはそれでも遠慮がちに、そうっとドアを開けた。
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