#01 魔法使いには、もうなれない

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 シンプルな外観に反して、部屋のなかは案外かわいらしい。そこまで広くはないが、2人で使って息苦しいというほどでもなさそうだ。壁ぎわには木製の二段ベッドがおかれ、部屋の中央には小さなテーブルセットまである。どの家具のアンティーク調で、使い込まれた木の風合(ふうあ)いにレットランの歴史を感じた。  窓ぎわにならんだ2つの学習机の隣には備え付けの本棚があり、教科書や参考書を置くスペースには困らないな、とクルミは安心する。入り口(わき)には鏡台もあったが、自分がこれを使うことはないだろうと、そのまま素通りした。  昔から、ファッションや髪型には興味がない。あごの下で切りそろえた髪は、ブラシでとかすだけ。見ために時間をかけるよりも、1つでもたくさんの単語を覚えるほうが、クルミには大事だったからだ。  かついでいた荷物を雑に足元へ下ろし、ふらふらと部屋の奥へ進む。  学習机によじのぼり窓の外をのぞくと、美しく整備されたセントラルガーデンの向こうにマ組の寮が見えた。直線的でシンプルなデザインの普通科寮に対し、魔法科寮は曲線的で装飾が多く、華やかな外観がとてもかわいらしい。  そんな建物のちがいさえ、今のクルミには心をえぐる材料だ。 「マ組合格、おめでとう!」 「ようこそ、魔法科寮へ」  マ組の新入生が到着するたび、優しそうな先輩たちが温かく迎え入れていく。 「みんな、キラキラの魔法科。なのに、わたしは……うぅ……」  悔しいのに、入寮していくマ組生から目が離せない。  両手でぐしゃぐしゃと頭をかきむしる。  つらい。つらい。つらい。  合格発表から1ヶ月もたったのに、まだ現実を受け入れられない。  地元の同級生に「がり勉」だとバカにされながら、それでも必死で勉強してきたのに。  模試ではずっと1位だったのに。  手ごたえはあったはずなのに、なぜ。  もう何度目かもわからない堂々巡(どうどうめぐ)りをくりかえすクルミの背後から、コンコンと元気なノックが聞こえた。
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