#01 魔法使いには、もうなれない

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「失礼しまーす。クルミ、今日からよろしく……」  あいさつとともに入ってきたマキが、学習机の上に正座して頭をかきむしるクルミを見て、あぜんとする。  われに返ったクルミは、ごまかすように笑いながらあわてて髪を整えた。 「こちらこそ、よろしくね」  大粒の涙をこぼしながら、それでも無理やり笑おうとするクルミの姿が痛々しい。マキはポケットからティッシュを取りだし、ため息をついてクルミへ差しだした。 「もー、いくらマ組の寮をながめたって、入れないものは入れないんだから」  クルミはすんと鼻を鳴らし、ありがたく数枚抜きとる。 「ほら、元気だして」 「ありがと」  しかし、思いきり鼻をかんでも、大きく深呼吸してみても、クルミの涙は止まらない。 「わたし今までずっと、魔法使いになるためだけにがんばってきたから。この先なにをめざして生きていけばいいのか……」  ぐずぐずと泣きつづけるクルミにとまどいながらも、マキは優しくほほ笑んだ。 「ショックなのはわかるよ? クルミはだれよりもマ組合格の近くにいたんだもん」  クルミの横に立ったマキが、先ほどのクルミと同じように窓の外を見下ろす。 「うちの塾でクルミ=ミライの名前を知らない人はいないと思う。だって、中3になって最初の模試で、塾外からいきなり1位! それまでトップスリー常連だったアスカ・エリカ・キョウをあっさり抜き去ったうえに、最後までだれにもトップをゆずらなかった……きっと、私じゃ想像もつかないくらい、たくさんがんばったんだよね」  クルミが生まれ育ったアブニール地方に、塾は1つもなかった。同級生たちの進路は、入試のない地元高校に進むか働くかの2択。クルミ自身、塾に通うという選択肢が浮かんだことは一度もない。おばあちゃんがどこからかもらってきた『レットラン模試』の申込書を見て、はじめて在宅模試の存在を知ったほどである。「ここで1位になれたらマ組に受かる!」と自分を励ましながら、毎月の模試に取り組みつづけた。 「クルミ=ミライはもう、マ組確定だって……みんなが思ってたんだけど」 「うぅ……わたしだって、そう思ってた。マ組に入るためにわたし、毎日まいにち必死に夜遅くまで勉強して……」
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