最終話

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最終話

五感はガムテープで。四肢と、首もお腹は鉄の金具と、鎖で固定されたまま。 だけど、返事をしなかったら、頭を殴られ、食事を抜かれる。 そんな、不可能なことを言ってくる彼を私は、怒らない。怒りもわかない。悪態も、悪口も、何も思いつかない。 健斗がいないと、生きれない。 生きるのに、必要なことは、生活の最低限の、水と食事は口移しで彼は食べさせて、飲ませてくれる。それに、最近は慣れて、5回に1回しか吐かなくなった。 臭くならないため、清潔でいるために、服を脱がさせて、新しい服に変えてくれる。最近肌着は着せてくれなくなった。シャツ1枚だけだ。下の服は糞尿が付くといけないからと着させてくれない。 排泄は最初は、バケツを下に置かれてたけど、それじゃあ糞はできないことに気づいたのか、太ももに鉄の鎖を巻いて、それで肛門下に、ポリ袋を付けたバケツをつけられた。糞は、私ひとりじゃできなくなった。健斗におなかを力強く押してもらって、ようやくできる。だから健斗がいるときは、見守っていてくれるようになった。自分の意志じゃない。尿も漏れそうになったら漏らすだけだ。 呼吸用に鼻は緩くガムテープでふさがれているから、においはすごくわかる。 臭いけど、我慢するしかない。 暇なときは、耳のガムテープだけ外して、読み聞かせをしてくれる。 お風呂は鎖をドアにつながれて、健斗と一緒だけど、きれいにするにはそれしかない。健斗も嫌がらずに、頭も、体も洗ってくれる。鎖もたまに、きれいにしてくれる。 風邪をひいたら、床に固定されて、鎖の数が多くなって、尿まみれになって、食事はない。健斗も口移しや掃除は風邪がうつる。嘔吐したいときはガムテープに向かって吐いて、口の中に逆流する。もちろん、健斗は来てくれない。移ると大変だから。 ガムテープだって、1日1回交換してくれる。ガムテープを変える瞬間は、頭を殴られ気絶させられた後だ。頭に包帯が巻いてあるらしい。 動けないように、足の刺し傷が治ったら、また刺されるけど、刺すときは彼が抱きしめて、口をふさいでくれる。 夜、寂しかったら、鎖の位置をベットの足の部分に固定して、一緒に寝てくれる。 ……私は、健斗がいないと生きられない。 …………生活できない。これは監禁というのだろうか。これは、なんというのか。 健斗は、私を甘やかす。 私は精神がおかしくなったのだろうか、 最近、四肢と五感、首も、お腹も、固定されたからだろうか。 生活に必要な部位が、私から、消えたからだろうか、 健斗に、所持権を奪われたからだろうか、 ……私はもう、人間として、機能してないのではないのか…… だって、鎖で固定され、掃除、着替え、食事、お風呂。糞尿は糞は手伝ってもらわないと無理だし、尿も漏らしてるだけだから、掃除してくれる人が必要。 これは、人間が生きるためにすること。それを、すべてできなくなったら、私は何なの? 健斗がいなくなったら、もう、何も人間として活動してこなかった私がどうなるかは、大体わかる。 私は、健斗がいないと、生きていけない。 私は、私を監禁して、身の回りのことをすべてやってくれる健斗に依存している。元、ストーカーの健斗に。 だから私は 耳のガムテープを外してくれる、 「おはよう」 「いってきます」 「一緒に寝ようか」 そして何より 「ただいま。ハル」 と、健斗が言う瞬間を、心待ちにしている。
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