再会は……

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再会は……

 彼だ。 右手でトランクを引いて……。  でも……。 彼の左手は別の人としっかり繋がれていた……。  青い目で金髪のブルーのワンピースを身に着けた……。  臨月かと思うほどの体型の可愛らしい女性……。  彼の目が私を見て立ち止まる。 「ただいま」 の声も聞こえて来ない。  私は見てはいけない物を見てしまったように動けない……。  おかえりなさいの言葉も出ない……。  頭の中は真っ白で……。  何をどうすれば良いのかも分からない……。  何も言えずに空港を後にした。  駐車場の車に乗り込み。  あれだけの光景で全てを悟った。 私は最愛の婚約者を失ったという現実を……。    赴任した頃は毎日、顔を見ながらの通話も楽しかった。  二か月もしたら通話だけになり。 それでも話せる事で安心出来た。  でも一年過ぎた頃から 「仕事が忙しくて暫く電話も出来ないから」  愁人の言葉を疑う事すらしなかった私は馬鹿だ。    車のエンジンを掛けて来た道を辿って帰る。  涙が止まらなくて……。 よく事故も起こさずマンション迄帰って来られたと思う。  直ぐにシャワーを浴びた。  今、見てきた現実も涙も何もかも洗い流したかった。  髪も乾かさずバスローブを身に着け、お気に入りのソファーに座る。  さっきまで着ていたワンピースをゴミ袋に放り込む。  あの人はブルーのワンピースを着ていた……。 あのお腹の子は彼の子供……。  あの金髪の可愛い人も彼に優しく抱かれたんだ……。  私を抱く時は避妊は欠かさなかったのに……。  たった二年の海外赴任で、この裏切り?  涙が後から後から溢れて……。 そのままソファーで泣きながら眠った……。  朝が来て……。  目が覚めた。  でも私の頭の中は昨日の空港のシーンが焼き付いたまま……。  携帯を見ても着信の一つもない。  あのまま彼の実家へ連れて帰ったの?  あれからどうなったのだろう? 「この人と結婚する」 「何をバカな事を言ってるの? 花蓮さんはどうするの? 二年も待たせて……。酷すぎるわよ」 「その人のお腹の子は間違いなく、お前の子供なのか?」 「決まってるだろう」 「自分のした事が分かってるの? お兄ちゃん最低」 「それで花蓮さんに帰国の連絡もしなかったんだな」 「出来る訳ないわよ。妊婦を連れて帰るなんて……」 「花蓮さんに帰国の事を言わなければ良かった……」  なんて……。 家族で修羅場……。  電話で話せなくなった頃には、あの人と一緒に居たんだ……。  仕事を理由にするなんて……。    婚約は白紙にしよう……。 そう言われた方がましだった……。    悲しい。苦しい。辛い……。  許せない。裏切り者。最低……。 冗談じゃない。ふざけないでよ。  もうどうでもいい。 私から何かをする必要などない。  両親にはなんて……。 言えるの?  明日からも何でもない顔をして仕事に行こう。 そう。何でもない。  私の愁人はもうこの世界に居ない……。 そう思えば良い。そう思えば……。
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