月曜日

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月曜日

 私はいつものように出勤した。  週末……。 あれから食事も喉を通らず、水とスポーツドリンクだけを飲んで過ごした。    現実を受け止められた訳じゃない。   あれは何かの間違い……。  私を見ても言い訳一つする気もない……。  私は愁人に捨てられた。  婚約までして、お互いの家族とも良好な関係を築けていたのに……。 「おはよう」 「……おはよう。何か顔色悪いよ」 遥奈(はるな)に言われた。 「何かあった?」 「うん。ちょっとね……」 「ちょっとって感じじゃないよ。大丈夫なの?」 「うん。……また話聞いて……」 「何でも聞くから。とにかく無理しないでね」  遥奈は同期で同じデザイン課でも一番仲良くしてる。  私の様子が普通じゃないのにも直ぐに気付いてくれる親友だ。 「夕飯行く?」 「そうだね……」 「無理にとは言わないよ」  遥奈は本当に心配そうに言ってくれた。  こんな日に限って銀座店に呼ばれる。 「課長。では銀座店へ行ってきます」 「あぁ。宜しく頼むよ」  松坂課長は笑顔で言ってくれた。 松坂瑛太(まつさか えいた)、三十一歳。企画開発部デザイン課の課長。  美大でデザインを専攻していたのになぜか営業部に配属されていた。  二年前にデザイン課の課長として赴任した、センスも新しい物を取り入れるのにも積極的な信頼出来る上司。  背も高く癒し系イケメンだと思うのにまだ独身だそうだ。  女子社員達にすごく人気がある。彼の横に並びたいと思っている人はたくさん居るのだろう。    銀座店で接客。 本当は立って居るのがやっと……。  何人かのお客様のお相手をして 「釈氏さん。休憩入ってください」  休憩室の自販機で買った水分だけを摂る。  食欲など元からない。 ただボーッと座っていた。  そろそろ時間だと思い立ち上がった……。  目の前が真っ白になって……。  そのまま倒れたらしい……。 「釈氏さん。釈氏さん……。救急車呼んで……」  気が付いた時には……。 消毒の匂い……。 ここはどこ……?  目を開けると……。 「釈氏。大丈夫か?」 心配そうな松坂課長が目に入った……。 「……。課長……」 「倒れたんだよ。覚えてないのか?」 「あぁ……。はい。真っ白になったことだけ……」 「貧血と過労と栄養失調だそうだ」 「すみません……」 「何かあったのか? きょうは朝から何となくおかしいと思ってたんだ」 「ご迷惑お掛けしました……」 「今夜は一晩入院だそうだ」 「はい」 点滴の針が刺さった腕……。 病院の寝巻きを着せられていた。 「夏目が来たら代わるから。それまでは僕で我慢してくれ」 「我慢だなんて……。本当にすみません」 「すまないと思うのなら、きちんと食べて早く元気になるんだな」 「はい……」 涙が溢れて止まらない……。 「仕事で何かあったのか?」 「いえ。違います」 「じゃあ私生活か……。恋愛絡みなのか?」 課長があまりにも優しく聞いてくれて……。 「…………」 答えに困っていると……。 「花蓮……」 遥奈が病室に飛び込んで来た。 「だから無理しちゃ駄目だって言ったのに……」 「ごめん……」 「じゃあ、夏目にバトンタッチだな。早く元気になれよ。明日から三日有給休暇にしておくから」 そう言って課長は優しい笑顔を見せて帰って行った。 「花蓮。こんなになる迄いったい何があったの?」  私は週末の出来事を少しずつ話した。 遥奈(はるな)は……。 「アンノヤロウ……許せん!!」 「遥奈……」 「このまま泣き寝入りする気?」 「まだ話もしてない。電話もないし……」 「絶対に許さない。そんな事する奴だとは思わなかったわ」 「私も思わなかったよ」 「花蓮……。辛かったね……」 そう言いながら遥奈が泣いている。  翌日退院してマンションに帰った。  仕事帰りの遥奈がマンションに寄ってくれて食事を作ってくれる。 「遥奈。ごめんね……」 「何言ってるの。私も帰ったら作るんだから同じ事よ。ここのキッチンの方が作り甲斐があるから気にしないで」  消化の良い胃に優しい食事を作ってくれて、遥奈には本当に感謝してる。  一緒に食事をしながら 「私、今夜泊まろうか?」 「良いの?」 「心配で花蓮を一人にしておけないよ」 「でも、明日も会社でしょう?」 「そうだよね。朝早く起きて一度帰って着替えて出勤すれば良いから」 「ねえ、遥奈と私ってサイズ殆ど同じだったよね?」 「あぁ。そうね」 「買ったままで着てない服があるんだけど……」 「じゃあ貸して貰おうかな?」 「うん。そうして」 「ありがとう。ここからの方が会社も近いし助かる。暫く置いて貰おうかな?」  食事の片付けを遥奈がしてくれている間に私はクローゼットを開けて新品のままのスーツとワンピース。それとお風呂上がりの部屋着、下着も……。 「えっ? こんなに素敵なの借りて良いの?」 「うん。って言うか、これ全部貰ってくれないかな?」 「もしかして訳あり?」 「あいつと出掛ける時にと思って買っておいただけよ」 「そっか……。でも私が着てるの見て思い出したりしない?」 「ううん。遥奈の方がきっと似合うよ」 「じゃあ着替えもあるし三日間泊まろうかな?」 「うん。そうしてくれると助かる」  順番にお風呂に入って、私はベッドに、遥奈には母が泊まりに来た時用の布団を使って貰った。 「これからどうするの?」 「まだ何も分からない。でもやり直すのは無理だと思う……」 「そうだよね……」  二人で話しながら安心して眠りに就いた。
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