それから……

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それから……

 三日間の有給休暇を退社後から朝の出勤時間まで遥奈が一緒に居てくれて、随分気持ちが楽になった。  四日目には遥奈と一緒に出勤した。 「おはようございます」 いつも早目に出勤している課長に挨拶に行った。 「もう大丈夫なのか?」 「はい。ご心配をお掛けしました」 「暫くは無理せずにデザインに集中するように」 「はい。分かりました」  デスクに戻ってパソコンの中にあるパンプスのデザインを完成させる事に集中して午前中は終わった。 「花蓮。お昼行こう?」 「うん」 「新しい美味しいお店見付けておいたから」  いつも行っていたお店とは反対方向にある出来たばかりの和定食のお店。  遥奈の気遣いに感謝した。 「美味しかった。ランチだからかな? すごくお値打ちだったね」 「でしょう? これからは毎日来ようね」  それから十日が経って私は少しずつ元気を取り戻していた。 「そういえば銀座店に呼ばれなくなったでしょう?」 「うん。あんな事があったから呆れられたかな?」 「違うよ。課長が上に言ってくれたの。家の大事なデザイナーを過労死させるつもりですか? って」 「えっ? 本当に?」 「偶然聞いちゃったのよ。会議室で部長と話してるのを。だから銀座店には新人のシューフィッターが入ったから」 「そうなんだ」 「課長、凄かったのよ。釈氏にはデザイナーの仕事に集中して欲しいんです。度々呼ばれていたんでは良い靴は作れません。売り上げが落ちても構わないんですかって」 「…………」 「だから花蓮はデザインに集中して良い靴を作ろう」 「課長に感謝しなきゃね」 「そうだよ。松坂課長やるなぁと思ったもの」  それから平穏な日々が戻ったように落ち着いて仕事をしていた。  仕事が終わって帰り支度をしていたら松坂課長に 「釈氏。晩飯付き合わないか?」 「はい」 「栄養付けて貰わないとな」 そう言って課長は笑っていた。 「課長、色々ありがとうございました」 「部下が気持ち良く実力を発揮出来るようにするのが課長の仕事だ。気にするな」 「はい……」  それから度々課長と食事に出掛けるようになった。  そんなある日……。 「釈氏。こんな事を言って迷惑なら忘れて欲しい。課長と部下ではなく、それ以上の感情を持っていると気付いたんだ」 「えっ?……でも私は……」 「君の気持ちが整理出来てからで良い。考えてくれないか?」 「ありがとうございます。気持ちの整理が出来たら真面目に考えさせてください」 「あぁ。分かった」  課長としてではなく、松坂瑛太という人とこれからどう付き合って行くのか……。  韮崎家からは何も言って来ないけれど……。  もう忘れようと決めていた。 何もかも愁人との事は終わったのだと……。  あの出来事から二か月が経った。  日曜日にマンションでゆっくりしていたら……。ドアホンが鳴った。  出てみると愁人の妹の瀬里さん。 「花蓮さん……。何の連絡も出来なくてごめんなさい」 「いいえ。瀬里さんが謝る事ないわよ」 「ううん。最低な兄に代わってお詫びに来たの」 「私ね。もう忘れる事にしたから。婚約破棄して欲しいの。ご両親にもそう伝えてください」 「兄はあれから父に勘当されてアパートを借りて、あの女と一緒に居るの。カレンと……。あぁ、ごめんね。あの女カレンって名前なの。ふざけてるわよね」 「そう。変な巡り合わせなのね」 「本当にごめんなさい」 「わざわざ来てくれてありがとう」 「花蓮さん……」  暫く話して瀬里さんは帰って行った。  愁人はあちらのカレンさんとお幸せなのね……。 胸がズキンと痛んだけど……。  私の知らない所で勝手にお幸せに……。  ところが、それから数日経って私は意外な人に呼び出された……。
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