シューズデザイナー

1/1
前へ
/7ページ
次へ

シューズデザイナー

 私、釈氏花蓮(しゃくし かれん)、二十三歳。  製靴メーカーでシューズデザイナーとして働いている。  地元神奈川の高校卒業後、東京の専門学校で三年間学び、憧れの会社に就職出来た。  とにかく靴が大好きで、小さな頃からお洒落な靴を作るのが夢だった。  素敵な靴は素敵な場所へと連れて行ってくれると言う……。  そう信じて難しい勉強も頑張って来た。  靴が好き過ぎてシューフィッターの資格も取って企画開発部で主に女性用の靴をデザインしている。  大好きな仕事に就けて毎日がとても充実していた。    シューフィッターの資格を持っているからか、私の年齢にしては良いお給料を貰っている。  資格を取るのは正直大変だった。  お陰でマンションも良い環境で通勤にも便利な広くて快適な部屋に住む事が出来ている。感謝しかない。    銀座の直営店舗にシューフィッターとして呼ばれる事も度々。  二十三歳で贅沢な暮らしが出来ているのだから文句は言えないけれど。  きょうも描きかけのデザインをパソコンに残したまま銀座店へ。  足に悩みを抱えるお客様に寄り添い満足して頂ける靴を履いてくださる事が何より嬉しい。  この店舗にお客様としていらした韮崎愁人(にらざき しゅうと)と出会った。  彼は真面目で優しい人だと思ったのが第一印象。  よく聞けば私の勤務する会社の直ぐ近くにある商社にお勤めだと分かった。  その後、会社の近くの居酒屋やカフェ、和食の美味しいお店などで偶然会うようになる。  私は一番の仲良しの同僚の夏目遥奈(なつめ はるな)と居る事が多く、彼も気の合う友人と良く来ていた。  何度も会うようになり自然に同席しての食事や居酒屋での飲み会もするようになる。  楽しい時間を過ごしていく中で、いつの間にか好感を持つようになった。  彼は商社の海外事業部に勤務する二つ年上の二十五歳。  明るい性格で話も面白くて一緒に居て楽しくて……。  あぁ、この人の事が好きなんだと自覚するのに時間は掛からなかった。  愁人(しゅうと)から 「花蓮が好きだ。僕と付き合って欲しい」 告白されて嬉しかった。 「はい。よろしくお願いします」 私は笑顔で応えた。 「ありがとう。良かった。正直言って自信はなかったんだ」 嬉しそうに言う愁人がますます好きになった。  半年後、都内に住む愁人の家族にも紹介されて、とても素敵なご家族でご両親と私と同じ歳の妹の瀬里(せり)さんとも仲良くさせて頂いた。  度々おじゃまして食事を頂いたり家族のように過ごす。  特にお母さまは私を気に入ってくださったようで本当に可愛がって貰った。  それから半年が過ぎて愁人からプロポーズもされ、私の実家の神奈川にも挨拶に行った。  私の両親も愁人を気に入ってくれて結婚も秒読み段階になる。  そんな時、愁人の海外赴任が決まった。彼は 「二年で帰って来るから戻ったら直ぐに結婚しよう」 「はい。愁人が帰るのを待ってる」 と返事をした。  両家の家族も了承してくれて私は本当に幸せだと思う。  二年なら待てる。そう思った。 仕事もあるし愁人との結婚を夢みて私は婚約者として彼を待とうと決めていた。
/7ページ

最初のコメントを投稿しよう!

172人が本棚に入れています
本棚に追加