ただいま、はいってきた情報です

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「ただいま、日本の二足歩行ロボット『シナノ』に武装をとりつけるのは、合憲か違憲か、みなさまのご意見をおましております」 月面着陸ロケットが地球から飛びたち、しばらくのちのスタジオは、いつもどおり政治家の汚職、芸能人のスキャンダル、さまざまな話題を伝え、そして議論していた。 (軍靴の音がきこえてくる) (まわりが敵国ばかりの我が国だ、武装も必要だ) (戦わない二足歩行ロボットは、ただのロボットだ) (武装、二足歩行ロボット、燃える、むせる) 「ただいま、はいってきた情報です」 大学のミスコンで優勝したであろう女性アナウンサーの姿が映しだされた。 「月面の周回上に待機していたロケットが、いまから月面にちゃきゃりくするようです」 (かんだ) (かんだ) (わざとらしい) (ぶりっこ乙) 「失礼しました、ただいまから月面に着陸するようです」 宇宙飛行士のマスクにとりつけられたカメラの画像にきりかわった。 思春期の若者の肌のようにゴツゴツとした月の地面を、ロケットの丸い窓から確認できる。 その月の地面のクレーターは、視界いっぱいにひろがりだした。 授業中に居眠りしていた人のように、カクっんと一瞬だけ画面がゆれた。 そののち画面は揺れうごくことなく、しっかりと固定された。 8本の腕は計器のチェックをはじめた。 4人の宇宙飛行士は操縦席からたちあがり、別の部屋に移動した。 なにも置かれていない部屋には、扉がふたつ。 ロケットの操縦席につながる扉と、月面につながっている扉がある。 月面につながっている扉についている車のハンドルのようなものを回すと、厚い扉がゆっくりとひらきだした。 ひらかれた視線の先には、サンゴが死にたえたような色をした月の地面がひろがっている。 そして、白い月の大地と黒い宇宙空間でつくられた地味なキャンパスに青い地球が、くっきりと鮮やかに浮かびあがっている。 地球の肌のうえに生息している人類は、母なる大地と海、空をよごしてきた。それでもまだ地球は青く、そして、美しかった。 宇宙飛行士のカメラが、なにか動くものをとらえた。 (いま、なにか動かなかった) (撮影場所に動物がはいりこんだか) (宇宙人か?) クレーターの穴から、二本の棒のようなものが飛びでている。 ススキを太くしたような棒が、ひくひくと揺れうごいている。 棒の長さは15㎝ほどであり、幅は5㎝ほど。 宇宙飛行士たちは、棒のほうに歩みだした。 ちかづくにつれ、棒のように見えたものは、生き物の耳だとわかった。 長い耳にくらべ顔はちいさく、のっぺりと虚無な表情。ちいさくきょとんとした眠たげな黒い目。 鼻をさかんにヒクヒクとうごかしている。 体は、白や黒、茶、ぶち色など様々な色の体毛におおわれており、前足はほそく、後ろ足はふとい。 (うさぎだ) (ほんとうに、月面にはうさぎがいたんだ) 映像を見ていたすべての日本人が同じことをおもった。 うさぎの数は100匹を超え、そのなかでもっとも大きく、高級猫のようにしっとり煌めく毛のうさぎが、宇宙飛行士たちに、しずしずと二足歩行でちかづいてきた。 うさぎの身長は、ちょうど人間の腰ほどであり、宇宙飛行士を見あげる黒い目をカメラがとらえた。 宇宙飛行士たちのリーダーがひざまづき、そして、うさぎを愛する人間がおこなう行動をとった。 ぶ厚い宇宙服につつまれた手で、艶々とした白い毛でおおわれたうさぎの頭をなでた。 頭をなでた瞬間に、うさぎたちの様子がかわった。 それは、草食動物から肉食動物へと進化するようだった。 静電気をあびたようにうさぎの毛が怒りたち。 黒い目が、怒気につつまれた赤色にかわり、ネコ科の肉食動物の爪のように、口から前歯がニョキリとはえた。 テレビショッピングの切れ味ばつぐんの包丁のような前歯で、うさぎはなでられた宇宙飛行士の腕をすぱッと切りさいた。 その瞬間、白と黒しかなかった世界に、赤いペンキがたらされた。 その赤いペンキは、地面に落ちることなく、ぷかぷかと浮かんでいる。 100羽にちかいうさぎたちは、4人の宇宙飛行士にいっせいに襲いかかった。 カメラをうめつくす、肉食獣のように凶悪な顔をしたうさぎたち。 カメラが割れたのか、画面にヒビがはいった。 声なき悲鳴があがり、静かな惨劇が月面で開幕した。 あざやかな赤い血、にごった赤い血が、月面に浮かびだす。 そして、人間の頭にとりつけられていたはずのカメラは、いまや地面だけを写しだしている。 どのカメラもうごかず、そして、倒れこみ、血をふきだしている宇宙飛行士の姿を写しだしている。 (映像をとめろ、とめろ、放送できない) (なになに、なにがおこった) (え?死んだの?) (うさぎに殺されたの?) (やらせや、どっきりじゃないのか?) 画面はきりかわり、青ざめた顔の女性アナウンサーが映しだされた。 「えっと、特番『日本初!!月面着陸の瞬間!!』をおわりまちゅ」 あわてて頭をさげる女性アナウンサー。 そして、異様に陽気なCMの映像にきりかわった。
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