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一週間がたち、一か月がたち、三か月がたち、半年がたった。
うさぎは襲来してこなかった。
うさぎは羽とかぞえる、鳥頭のように日本のことをもう忘れたのではないか、と人はいった。
スタジオでは、アナウンサーと大学の教授が、日本から逃げだした総理大臣と官僚たちの行動について語りあっていた。
(死刑で)
(財産没収でええやろ)
(ふだん偉そうなやつほど逆境によわい)
日本人は熱しやすく、冷めやすい。
うさぎの襲来におびえた日々はおわり、防衛大臣がととのえた防衛網はとかれ、日常の生活にもどった。
うさぎたちは、臥薪嘗胆、虎視眈々、日本人の殺害を忘れてはいなかった。
大学の教授と話しあっているアナウンサーに、ADがちかづいてきた。
そして、スマートフォンをわたした。
アナウンサーの目が、かっと見開かれる。
「ただいま、はいってきた情報です」
「うさぎ、うさぎたちが、日本全国に降下してきています」
直径1メートルほどの白く丸いモチのような物体が、隕石のように黒い雲をつきぬけ、ゆっくりと降下してきている動画が映しだされた。
日本全国に白いモチがふりそそぎ、その数は千をこえ、万をこえた。
粘着質なモチは、空から地面に落ちた衝撃を吸収した。
粘着質なモチから、きびきびと赤い目を冷酷に光らせたうさぎたちが飛びだす。
うさぎたちは、ちかくにいた日本人に襲いかかる。その動きは、無重力空間にいたはずなのに、地球上に存在するチーターよりすばやく動き、大空をかけるワシのようにするどく日本人の首を前歯で切りさいた。
桶狭間の今川義元、カンネの戦いのローマ人のように日本人は蹂躙された。
二足歩行ロボット『シナノ』は活躍する場所をもたず、沈黙している。
自衛隊も警察も組織だった抵抗をできず、モグラたたきのように各個撃破された。
うさぎの前歯は強力無比だが、日本人の人口だけはおおかった。
うさぎの前歯の切れ味がにぶりだす。反撃にうってでる個人もおり、うさぎを撃退した報告もあがりだす。
うさぎたちは、日本のあちらこちらに自生している竹に目をつけた。
うさぎたちは、竹を切りたおし、斜めに切り、竹やりをつくった。
そして、大量につくった竹やりで、日本人のお尻から口まで刺しつらぬきとおした。
日本人がどこに隠れようと、うさぎが鼻をひくひくと動かすと、たちまち居場所を見つけられた。
ピラニアのように暴力的な火の塊になり、カンディルのように陰湿にしつこく日本人を刺しつらぬくうさぎたち。
日本中のあちらこちらに、モズのはやにえのような日本人のオブジェがつくられた。
そのオブジェは、日本人たちの抵抗する心を木端微塵にうちくだいた。
「ただいま、はいった情報です。在日米軍が日本人救出のために軍用輸送飛行機を用意しています」
「見ているひとがいるかわかりませんが、見ているひとは在日米軍基地に避難してください」
黄色いヘルメットをかぶったアナウンサーが必死の形相でメッセージを送っているスタジオに一陣の白い風がふきあれたと見えた瞬間、アナウンサーは肛門から口までを竹やりで貫かれていた。
カメラマンもすでに貫かれており、アナウンサーの悲惨な姿はさらしつづけられることになるのだが、その姿を見る日本人はもうほとんど残っていない。
うさぎに支配された日本。
うさぎは、日本人が育てていたモチ米を蒸し、つき、おいしそうに食べた。
そして、おもいだしたように、生き残っている日本人を狩猟した。
日本は、日本人をうさぎがおいし国になった。
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