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01.烏の巣へ
暗闇の森の中、時折揺れる木々の音さえ恐怖の対象。そんな場所で、鲁明霞は途方に暮れていた。
つい先ほどまでは、皇宮の中でも一際煌びやかな宴の間にいたはず。なのに、いつの間にやら従者たちに追い立てられるように馬車に乗せられ、ここに連れて来られたのだ。そして、置き去りにされた。
「烏族へのお輿入れは決定とのこと。ならば、一刻も早く一族の元へ連れて行くようにと、美麗様と麗花様から命じられ、ここまでお連れいたしました。ここから先は、一族以外の者が立ち入ることができません。ですので、我らはここまで。それでは失礼いたします、明霞様」
従者の一人がそう言って礼をし、明霞一人を残して行ってしまった。誰一人としてともに留まろうとはせず。
明霞は、四つの国から成る大陸、北に位置する玄武皇国の第一皇女だ。そんな彼女がたった一人、森の中に取り残されるなど通常ならありえない。
「宴では、烏族も影で警備をしていたはず。なら、巣にはあまり人がいないわよね……。それに、先触れを出しているのかしら? お義母様と麗花が勝手にやったことだろうから、そんなものないわよね。ここに私がいると気付いてもらえるのは、いつになるのかしら」
明霞が溜息をつくと、大きな羽音が辺りに響き渡った。と同時に、ガァガァと烏の鳴く声がする。
上を見上げると、いくつもの鋭い光があった。こちらを窺うように、そして威嚇するように睨みつけてくる。
「烏……。いったいどれほどの数が……」
バサバサという羽音は止まない。次から次へとここへ集まってきているようだ。困惑しているうちに、明霞は烏たちに取り囲まれていた。
(私は敵じゃない……! だけど、勝手に来てしまったのだもの。敵と思われても仕方がない。もしかして、私はこの烏たちに襲われる? 烏といえど、この数に一斉に攻撃されれば私なんてひとたまりもないわ。それに……思った以上に大きい)
烏にもいろいろな種類がいるが、この森で暮らす烏たちは大きい。両の羽を広げると、小さな子どもの身長など超えてしまうほどに。
明霞は耳を塞ぎ、その場に座り込む。彼女を責め立てるような鳴き声に恐れをなして。
怖くて怖くてただ震えるだけ。そんなちっぽけな自分に嫌気がさす。かといって、この烏たちに立ち向かう勇気はなかった。仮にそうしても、勝ち目などない。
──そんな時だった。
『今夜、外からの人間が来る予定なんてあった?』
『知らない』
『それに、誰だ? あんな人間、いたか?』
『さぁ? 綺麗な服を着ているし、高貴な身分なのかもしれないけど、あんな女見たことない』
数人の話し声が聞こえてきた。上から。
明霞は立ち上がり、再び見上げる。しかし、そこに人らしき姿はない。ようやく暗闇に慣れてきた目を凝らしてはみるが、見えるのは烏たちの姿のみ。
「どういう……こと?」
意味がわからない。
ここには烏たちと自分しかいないのに、何故人の話し声がするのか。
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