04.働き者の皇女

1/2
前へ
/51ページ
次へ

04.働き者の皇女

 朝は、春燕(チュンヤン)が来る前にはすでに起き出し、部屋の掃除を完了させていた。また、着替えを手伝おうとすると、皆と同じ服装を所望し、自らで着替えてしまう。  それだけではない。朝食の準備を手伝い、仕事に出かける面々を送り出し、片付けまで手伝う。それが終われば、留守番組の者たちの指示に従い、屋敷の他の部屋の掃除、洗濯までこなしてしまった。  そんな明霞(ミンシャ)を前に、留守番組の面々は、皆あんぐりと口を開ける。 「明霞(ミンシャ)様、私、現実を目の前にしても、まだ信じられない気持ちなんですが」 「信じられない?」  不思議そうな顔で尋ねる明霞(ミンシャ)に、春燕(チュンヤン)は大きく息を吐き出した。 「掃除、洗濯、食事の支度、どれもこれも完璧なんですけど! こんな皇女様なんて、見たことも聞いたこともありません!」 「完璧? 本当? それはとても嬉しいわ」 「いやいや、褒めてな……いえ、褒めてますけど! でもそういう問題ではなく……」 「あら? この服、確か袖に小さな穴が開いていたはずなんだけど」 「あ、先ほど見つけたので繕っておきました」 「えええっ!?」  後で自分がやろうと思っていた女が、驚きの声を上げる。  まさか繕いものもできるのかと、他の者たちがわらわらと集まり、その仕事を目にして皆が一斉に吐息した。 「ほとんど目立たないわ。繕いものも上手」 「本当に」 「皇女様なのに、使用人がやるような仕事が完璧って、いったいどういうこと……」  皆の言葉に、明霞(ミンシャ)はただただ苦笑いを浮かべるばかり。  皇女とは言っても、母、魅音(ミオン)が亡くなってからは、名ばかりとなった。美麗(メイリン)麗花(リーファ)に次から次へと仕事を言い渡され、できなければ罰を受けていたのだから。それが三年も続けば大抵のことはできるようになるし、明霞(ミンシャ)は元々器用でもあったので、なんだかんだとこなせてしまったのだ。 「大体の事情はこちらでも把握しておりましたが、まさかここまでとは思いませんでした。美麗(メイリン)様と麗花(リーファ)様の気性の荒さと我儘さ加減は、筋金入りですね……」 「で、でも! そのおかげで、私は今こうやって、皆さんのお役に立てているのだから! ……と言っても、ほんの少しでしょうけれど」  ここにいる全員が、情報収集や諜報の仕事に携わっているのだ。烏族は妊婦や幼い子どもを除き、皆がそれを担っている。  しかし、明霞(ミンシャ)には無理だ。烏族の仕事は、幼い頃からの訓練が肝であり、年齢を経てからでは難しい。よほどの才能がない限り、不可能とも言える。  だから、明霞(ミンシャ)がここでできることは、屋敷内を綺麗に保つこと、美味しい食事を作ること、皆が心地よく過ごせる空間を作ること──。
/51ページ

最初のコメントを投稿しよう!

199人が本棚に入れています
本棚に追加