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別れと最後の願い
「残念ですが…覚悟して下さい」
検査結果が出て、鈴木くんに話を聞きに行った私と雅に告げられた事実は、夫の…余命1ヶ月と言う宣告だった。
「最善を尽くすつもりでしたが…既に手の打ちどころが有りませんでした…申し訳有りません…」
「そんな…!鈴木研究員なら、どんな病気でも治してくれるんじゃないの?!」
雅が涙声で鈴木くんに詰め寄る。
私も溢れてくる涙が止められなかった。
「返す言葉も有りません…」
鈴木くんの声が震えている。
この中の誰もが、どうすることも出来ない現状に悲しみ、打ちひしがれていた。
「嫌あー!私は、そんなの嫌あー!!」
雅は、そう泣き叫ぶと、診察室を飛び出して行ってしまった。
「雅…!…鈴木くん、私は、私達は、どうすれば良いの…?!」
鈴木くんに当たっても仕方ない。
わかっていても、つい責めるような言い方になってしまう。
鈴木くんは眼鏡を外して、眼頭を押さえていたけど、やがて眼鏡を掛けて言った。
「延命治療をすることは可能です。ですが…千夜くん、ご主人には多大な苦痛をもたらす事になります…」
私は究極の選択を迫られた気がした。
当然、直ぐには即答出来ない私に、鈴木くんが暗く、しかし、確かな声で言った。
「このまま、ここで静かに最期を迎えさせてあげる事も出来ます…」
鈴木くんの話によると、若葉大学総合病院には、延命治療をしない療養病棟も在るみたい。
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