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それから数日後。
鈴木と香澄、雅、そして看護師達が病室にやって来た。
「千夜くん、今から病室を移動します。ベッドを動かしますよ」
「あ?この病室じゃダメなのか?」
「はい、病院側の都合です。申し訳ありません」
鈴木がそう言うと、看護師達はキャスター付きのベッドを動かそうとする。
「待ってくれ。移動するなら、そこの棚の上の鶴と千羽鶴も持ってきてくれ。棚の上のは博史…孫が折ってくれたんだ」
「わかってますよ。香澄さんか雅さん」
「ええ。棚の上のは私が持って行くから、雅は千羽鶴をお願い」
他の荷物は看護師達が手分けして持って、俺はベッドに横になったまま、病院の廊下を移動した。
「博史も鶴の折り方、上手ね。雅が教えたの?」
「うん。後、茜さんとでね」
そんな会話を聞きながら、俺は新しい病室に移動した。
今度も個室のようだ。
ベッドが固定されると、鈴木は聴診器を当てた。
「後で薬も変えましょう。痛みや吐き気といったものが緩和されます」
「ああ、頼んだ。早く退院して、又、店、開きてーからな」
一瞬、香澄と雅の表情が曇った事に俺は気付かなかった。
「はい。千夜くんが退院したら、又、皆で山村亭でお祝いしましょう」
俺は、鈴木の優しい嘘を信じ込んでいた。
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