千夜くん、病に倒れる

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「じゃあ、お父さん。お大事にね?」 雅は、そう言って、俺に向かって手を振ると、病室を出て行った。 個室の病室で、俺は博史と2人きりになる。 「祖父さん、母さんが言ってたんだけどさ…」 博史は、そう言いながら、丸椅子を俺の枕元に持って来て、座った。 「千羽鶴に願い事を掛けると、1度だけ本当に叶うんだって。ホントかなぁ?」 「迷信だろ。祖母さんにも訊いてみると良い。千羽鶴には、折った人間の、病気が治って無事に退院して欲しいっつー願いが込められているんだ」 「やっぱ、そうだよな!母さん、迷信、信じ込んじゃってるよ!」 その後、香澄が病室に見舞いに来るまでの間に、俺は博史から色々な話を聞かされた。 同じクラスに好きな女子が居るけど、どうしたら良いか、解らねー事。 1度、焼肉を食いてーが、透にも雅にも山村亭で食わせてもらってない事。 山村亭でも、座敷に、それらしい席、在るのにな。 後、冬休みの間に、ネズミーランドという遊園地に遊びに行きてー事。 博史の悩みは、どれも小学生らしい。 孤立していた俺の小学生時代と大違いだ。 「博史。男なら当たって砕けろだ。好きな女子に告白してみろよ。案外、良い返事が返ってくるかもしれねーぞ」 「けどさ、その勇気がなかなか出ないんだよ…」 「何の勇気が出ないんですって?」
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