ただいま、なんて言わない。

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土曜日、自室にこもって本を読んでいると コンコンと控えめにドアがノックされた。 「日香凛、話がしたい」 いつにもなく緊張した様子の父の声。 「後にして」 「お母さんのことなんだよ」 「いいからほっといてよ」 「でも、お前に言わなくちゃいけないことが」 「ほっといてって言ってんでしょ!!!」 声を荒げるとドアの向こうは静まり返った。 しばらくして「……分かった」と力無い返答。 足音が遠ざかっていった。 さすがに言いすぎたかな。 そう思ったが時すでに遅しだ。 わたしは深くため息をつく。 いつからこうなっちゃったのかな。 わたしたちの関係はもう修復不可能なのだろうか。 そもそもお父さんは本当に不倫をしたの? いろんな考えが脳をよぎるが 勢いよく頭を横に振りかき消した。 何考えてるのわたし。 これじゃまるでお父さんを許してるみたいじゃない。 わたしはそんな考えから逃げるように ベッドの中に潜り込み目を瞑った。
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