ただいま、なんて言わない。

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ただいま、なんて言わない。

「なんで、離婚したの?」 小学生の頃、両親が離婚して そう問いかけられたことがある。 今思えばなんてデリカシーのない男子なのだと思うが 当時小学生なのだし仕方ないだろう。 そのときのわたしは誤魔化すように微笑んで 「なんでだろうね」と首を傾げて見せた。 本当は知っていた。 父が不倫したことがきっかけなのだと。 中学生の頃、心労のせいか 母が倒れ、病を患った。 闘病も虚しく母は他界し、 わたしは父に預けられることとなった。 その頃からわたしは父に憎しみに 近い感情を持つようになっていた。 全て父が悪い。 母が死んだのも少なからず 父のことが関係している、と。 だから、わたしは 『家庭』を忌避するようになった。 ただいま。 この言葉が1番嫌いだ。 母が料理を作って、父の帰りを待つ中 あの人は愛人とよろしくやってたのだ。 それなのに白々しくにっこり微笑み ただいまと口にする。 だからわたしは ただいま、なんて言わない。
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