その目(1月7日)

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「こちらが医師咲良(アールツト・サクラ)」  正確なドイツ語の発音でKが、客の一人を紹介する。  舞台によじ登って樹楽と一緒に踊っていた若い男だ。 「美容整形医です。言いにくかったらドクター咲良(サクラ)でいいよ」  馴れ馴れしい口調。麻薬が抜けていないのか、目元はトロンと濁っている。  相当マイペースな人間のようだ。  嫌いなタイプの男に、女刑事は顔を引き攣らせて後ずさった。  ドクター咲良の双眸は派手なピンクだ。さすがにそれは天然のものではあるまい。カラーコンタクトだと分かる。 「女刑事さんは何歳なの?」 「な、何よ。何でアンタにアタシのトシを言わなきゃなんないのよ」 「えーっ、いいじゃーん?」  ドクター咲良の不躾な態度に、ガーネットのこめかみが引きつる。  レオがそんな彼女の背中を無遠慮につついた。 「そんなヤツねほっといたらいっスよ。あとは、そこの傷だらけの大っきい人っスね」 「そ、そうね。アナタ、女ラッパーとはどういう……?」  暗い緑の目がガーネットを真っ直ぐ射抜く。女刑事はたじろいだ様子だ。 「オレは、ブラッド・ヴェルク。Kの兄で、25歳だ。日本人とドイツ人のハーフ。リュックザイテ警察署所属の特殊部隊に勤務していた、さっきまでは。それから──」  ブラッドは静かに続けた。 「カンナ、だ」 「え……?」 「女ラッパーじゃなくて、カンナだ」  物静かで辿々しい口調は、しかし凄みを帯びている。  コクリと頷くガーネットを、彼は続きを促すように見詰めた。 「な、何よ」 「だからさっきの話……『(フュンフ)』の事ですよ」  Kが口を尖らせて説明を求める。  急遽、臨時休業の札を出した店内。そこにいる全員がガーネットを注視していた。 「フゥ……」  何本目かの煙草に火をつけて、彼女は椅子に腰掛けた。
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