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その目(1月7日)
裏道の建物沿いに鉄色の車が止まっていた。
軍用車両FAVスコーピオンだ。バギータイプの車両が雨に打たれている。
車の側には汚れたビルが建っていた。一階の入り口には小さな看板。擦れかかった文字は、ネーベンガッセと読める。
ドイツ語で「裏道」という意味の店だ。
赤錆の浮いた扉。
不用意に開けると、雑な喧騒に耳をやられるだろう。
コンクリート剥き出しで色彩の乏しい店内は酒の臭いに満ち、西欧やアメリカの音楽が大音響で流れていた。
客は数人だ。まだ夕方の早い時間ということもあって、スタッフの数の方が多い。
目を引くのは狭い店内スペースの半分を占めるステージである。
茶色の髪をしたストリッパーがクレイジーダンスと呼ばれる激しい動きで腰をくねらせていた。
トイレでクスリをキメてきたばかりの男が舞台によじ登って一緒に踊りだす様を背後に、カウンターに1人の巨きな男が背を丸めて窮屈そうに座っている。
顔中傷だらけのその男は、ごつごつとした両掌の中に鮮やかな色彩を隠していた。
指の隙間から漏れるのは、木漏れ日の色をした薄い緑色の光だ。
男の手の中で小さく瞬く、それはビデオカメラだった。
古い型のもので、機械のサイズのわりにモニターは小さい。
きらめく緑の光。
モニターの中では、女が微笑んでいた。
薄緑の双眸をきらめかせた、華奢な女性だ。
女が何か言う。
音声は店内の騒音にかき消されてしまったが、その唇はこう動いた。
──ブラッド、と。
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