その目(1月7日)

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 男の名はブラッド・ヴェルク。  2メートルを越す巨体を、出来るだけ目立たぬよう小さく小さく縮めている。  強面の上に顔中傷だらけだ。切り傷と、銃弾が掠った火薬の跡。瞼が切れて腫れ上がっており、鼻も歪んでいるのが分かる。  物騒な空気を放つ彼に、好んで近寄る者は居ないだろう。  ところが、だ。  そんなブラッドに無遠慮に歩み寄って来る姿があった。 「機械は苦手なんじゃなかったですか、兄さん」  カウンターの内から、黄色の衣服に身を包んだ小男がブラッドに水を差し出したのだ。 「昨日、カンナがくれたんだ。使い方も、教えてくれた。簡単だ」  辿々しく喋る。傷だらけの顔に、邪気のない純真な笑顔。  はいはい、と黄色の男は苦笑した。 「まったく、こちらが恥ずかしくなるほどの間抜け面ですね、兄さん。可愛らしいストラップまで付けて」  緑色の大きな葉っぱの型のストラップがビデオカメラに付けられている。 「これも、カンナがくれた。カンナの、眸の色に、似ている」 「はいはいはい」  半分呆れながらも、黄色男はちらと兄を見やった。  濃い緑の葉──それは、どちらかというと兄さん、あなたの目の色に似てるんじゃないですか、と。  この鋼鉄の街に木々はない。  彼がこの街でチンピラ相手に酒場の経営を始めてから、そろそろ3年が過ぎようとしていた。  長くもっている方である。大抵の店は1年足らずで抗争に巻き込まれて建物が潰れるか、店長が死ぬかして姿を消す。  3年間、気の休まる時間は正直、一瞬もなかった。  そんな中で無垢な兄の存在は、弟にとって唯一の癒しになっていたのだ。  勿論そんな事、決して口にはしないが。
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