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「そうだ。K、これを」
ブラッドが横の椅子に置いていた紙袋を、思い出したようにカウンターに乗せる。
中には黒光りするサブマシンガンが無造作に入れられていた。
「ヘックラー・ウント・コッホ社、最新のMP7が、2挺入っている。すまないが、K、今日で最後だ」
「ええ、すみませんね」
ブラッドとK──外見は全く似ていないが、彼らは実の兄弟である。
今日で最後、という言葉は言った方にとっても、言われた方にとっても重いものだ。
数秒の沈黙が2人を覆う。弟が口を開きかけては黙り込む事を何度か繰り返す間、兄はおとなしく恋人の映像を見ていた。
「夜、カンナのステージが終わったら、出発するよ」
不意にブラッドが顔をあげた。
Kが微かにたじろぐ素振りを見せる。
「特殊部隊の出勤も、今日で最後だった。ドイツでも、チェコでもいいってカンナが。緑の豊かな田舎に住もうって言ってた」
弟は諦めたように小さく息をついた。口元が微笑を作る。
「そうですね。兄さんは早くこの街から出て行った方が良い。あまり人がいいと、ここでは長生きできませんからね」
今夜は兄弟の別れの夜だった。
兄は恋人と共に街を出る。
弟はこの街で店を続ける。
お互いに、それが最良の選択だと分かっている。
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