砦の暮らし

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砦の暮らし

 少年の名前はトレーネ、年齢(とし)は10才になる。  ソールは身寄り学もないトレーネに生きる術を教えることにし、命を絶つことを少し先延ばしにすることにした。  ふたりは初めて出会った廃砦で暮らし始める。  ソールは得意の魔法を駆使しながらトレーネに読み書き計算を教え、更に魔法の手解きをした。  トレーネは非常に優秀な生徒で、ソールに教えられたことを直ぐに吸収していく。 「ソール様、もっともっとぼくに色んなことを教えて下さい! ぼく、ソール様みたいになりたいんです!」  そんな事を言うトレーネが可愛くて、可愛くて。ソールは死んでしまうのが惜しくなっていた。  ベッドで健やかに眠るトレーネを見つめながらソールはふと思う。こんなにも穏やかな時を過ごしたのはいつ以来だろうと。  過酷な呪い集めの旅の前は、勇者一行として魔王討伐の旅をしていた。その前は日々生まれ故郷を狙う魔物達との戦いに明け暮れた。  だが今は倒すべき敵はおらず、封じるべき呪いは全て集めきった。ただあるのはトレーネという小さな存在だけ。 「ん〜、ソール様ぁ。大好きです、えへへ」  そんな寝言を口にしてにこにこと微笑む少年のことをソールもまた我が子のように愛してしまっていた。  トレーネと共にありたいと思うが、醜い自分では必ず少年の未来を歪めてしまう。  明日こそは、明日こそは別れを切り出そう……ソールはトレーネの寝顔を見て毎晩そう決意するのだった。
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