124人が本棚に入れています
本棚に追加
変わらない日々
狭い簡易ベッドで目覚める朝、いつもの日常はここから始まる。
見慣れた天井も、消毒液の匂いもその全てが今の自分だった。
緊急連絡用のPHSをポケットに入れ、朝食を摂るために職員用の食堂へ向かう。
当直の職員に軽く頭を下げて、椅子に座ると給食係の女性が朝ごはんの乗ったトレイを持ってきてくれた。
「先生、おはようございます」
「ありがとう、いただきます」
定年間近の彼女は、翔太が来るといつもこうやって朝食を持ってきてくれる。
2年前、救急で運ばれた彼女を手術したのも翔太だった。
脳梗塞を起こし、息子と一緒に救急車で運ばれてきた。
深夜勤務を終えて、帰り支度を始めていた翔太は、脱いだ白衣に再度袖を通し彼女の元へ向かった。
数時間の手術を終え血栓をカテーテルで取り除き、一命を取り留めた。
病院の給食係をしていた彼女は、仕事に復帰した日から翔太が食堂へ来ると、食事を運んでくれる。
通常、自分でトレイを持って朝食を乗せてもらうシステムになっている。
滅多に笑わない翔太が彼女にだけは笑顔を見せる。
それは、彼女の笑顔が母に似てたから・・・・・
食事が終わると、入院患者の回診を済ませ、来院患者の診察を始める。
都心から離れた郊外にある相良病院は、この地域の唯一の総合病院で、個人病院からの紹介状を持った患者も多い。
有島 翔太は、大学病院では有名な脳神経外科医だった。
多くの患者を救い、奇跡の指と呼ばれるほどの力量を持っていた。
その彼が総合病院とは言え、郊外の病院に勤務しているのには理由があった。
最初のコメントを投稿しよう!