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宣言
部屋へ入った龍太郎は、海堂を睨みつけた。
一瞬怯んだ様子の海堂だったが、まっすぐな視線を龍太郎に向けた。
「社長、今日のスケジュールですが・・・・・」
「そんなのは分かってる。それよりお前に忠告しておく。俺は翔太と結婚した。正式に籍も入れた。だから、諦めろ。無駄なことはするな、分かったな」
「おめでとう御座います。でも、僕は諦めません。翔太先生の事はこれからも気にします」
「お前も諦めが悪いな。俺たちの想いは十年越しなんだ、お前の入り込む隙はない」
「だからこそ、油断は禁物ですよ社長!プライベートでは貴方は僕にとって恋敵です。勿論、仕事はきちんとやります。」
龍太郎は海堂の言葉に”若さへの羨ましさ”を感じていた。
若さ故に自分の犯した過ち、他人の言葉をそのまま受け止め、翔太の元を離れた愚かな自分。
愛する気持ちはそのままなのに、十年もの間何もしなかった。
十年もの長い時間を無駄にした。
理由も分からず寂しい思いをさせた龍太郎を、翔太は許してくれた。
あの頃の自分も、今の海道のように純粋でまっすぐな気持ちで翔太を愛していたはずだった・・・・・
海堂の言葉と気持ちに僅かな恐れすら感じた。
「行くぞ」
「はい、社長!」
部屋を出ると翔太が仕事に行く準備を終えて二人を待っていた。
「翔太、行こうか」
「うん」
「翔太先生、大丈夫ですか?」
海堂が大丈夫かと聞いた意味は分かっていた。
「大丈夫だよ。ありがとう」
三人揃って車で出発した。
翔太を病院の前で下ろした後、二人は会社へ向かった。
二人とも無言のまま、車内は重い空気に包まれた。
「社長、先生にも仕事があるんですから気をつけてあげてください」
「何の事だ」
「・・・・・すいません、余計なこと言いました」
海堂の言いたいことは分かっていた。
自分でもやり過ぎたと思っていても、他人に言われるとムカつくし、特に海堂に言われたくはない。
それは恋人同士だからこその行為でお前に余計な事を言われる筋合いはない、そう胸のうちで呟きながら、勿論口にする気はなかった。
仕事は相変わらず忙しく、海堂が手際良く処理してくれるのは大いに助かっていた。
恋のライバルでなければ、海堂は最高の秘書だった。
それが尚更腹立たしかった。
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