清八郎奇談

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 男は名を清八郎(せいはちろう)といい、年齢については答えない。答えられないと言った方がいいかもしれない。二十歳そこそこに見えなくもないが、十五、六に見えなくもない。  一七〇センチに満たない小柄な体格で、少し色素の薄い頭髪は、栗毛というよりグレーに近い。  おかっぱ頭のように前髪は眉の上で切り揃えられているものの、癖毛の為に毛先の向きは無造作に一定ではない。  賀茂茄子のような丸顔はお世辞にも美男とは言い難いが、色白で目鼻立ちがハッキリとしており、異国情緒を漂わす。  肉付きが良い割に肩幅は狭く、撫で肩は男を優しげに見せる。  黄色に紺ラインのタータンチェック、襟付きのシャツにジーンズと言う出立ちは、色褪せているものの小綺麗で、さり気ない気品すら感じさせる。  清八郎は『何処からきたのか』という私の質問に 「あっち」 と山の方を指差すだけで、要領を得ない。  また、どうしてここにいるのかという問いに対しても、 「わからない」 としか答えなかった。  見た目に似合わず、言葉遣いは異様に(つたな)い。  この時速やかに警察に通報をしていればとは思うが後の祭りだ。  笑われるかもしれないが、私は彼との間に不思議な『縁』を感じたのだ。  一抹の不気味さを感じながらも、その邪気のなさに完全に気を許した私は、一旦清八郎を家にあげて、改めてゆっくり人と(なり)を観察することにした。 『ただいま』 トキが ─ (びん) ─ と応える。  二キロ先の線路を警笛を鳴らし、けたたましく電車が走り抜けるのが聞こえた。
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