清八郎奇談

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*** ある日、 19:00過ぎ、 仕事帰り。  屋根付きのカーポートに車を停めて、素早く助手席のハンドバッグを手に取り降車する。  自動車に反応し、既にセンサーライトは点灯していた。  土留めの端の階段を上がる。  共働きで忙しくしている所為で、冬場に長らく放置された玄関先の狭い庭では、オオバコやカヤツリグサ、空き家になった花壇にはヤハズエンドウやドクダミが、様子を見がてらに顔を出し始めていた。  近い内に草引き乃至は除草剤を散布せねばなどと思う。  ポーチの向かって左の角には、一本、(ひさし)を支える太い柱がある。  鍵を取り出そうとバッグをゴゾゴゾと(まさぐ)る内に、視界の端に影が映った。  柱の後ろに見知らぬ男が(うずくま)っていた。  私は驚き飛び上がり、声を上げた。  だが、男は臆さぬ様子で、寧ろ困ったような顔をして目だけで私を見上げ、首を傾げてみせた。  まだ妻の帰宅前であり、家には誰もいない。  恐ろしいが、捨て置いて逃げるわけにもいかず、警察に連絡をと携帯電話を取り出した時に、男が突然立ち上がり私に飛びついてきた。 「やめろ!! 」 と声を上げ振り払った私を、また不思議そうに首を傾げ、目を(しばたた)かせ見る。  どうやら彼は、私の行動に反応したのでなく、携帯電話自体に興味を持ったようだった。  私に危害を加えるような素振りを見せないので、乱れた呼吸を整えてから氏素性を尋ねてみる。
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