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家族の愛言葉
「ただいま」
子供の頃、家に帰る度に何気なく使っていたこの
言葉。別に意味も無く、ただ挨拶だとしか認識していなかった。そんなある日の夜。
私──凪咲は、父の昔話をいつもの様に聞いていた。その中でふと、今でも印象に残っている内容がある。それは父が、まだ母と出逢う以前の話だった。
「ママと出逢う前は、ずっと一人暮らしをしていたんだ。家に帰って”ただいま”って呟いても、返事が返って来ない⋯⋯そんなことは当たり前。分かっていたんだ。それでも、家に誰も居ないことがこんなにも悲しいとは思わなかったよ⋯⋯だけど、そんな人生を変えてくれたのがママだった。
ママと結婚出来た時にはこんなパパを受け入れてくれてとっても嬉しかったんだ。だって、仕事から帰宅しても誰も居ない生活は終わって”ただいま”と言ったら”おかえり”と返してくれる人が出来たのだから。」
「⋯⋯そうだったんだね」
「あぁ。でもね、それだけではないんだよ。
凪咲達が生まれてきてくれたことが更に、パパの心を豊かにしてくれたんだ。一人から二人、三人、四人ってどんどん家族の形が出来ていって、凪咲達が大きくなった頃だ。”ただいま”って言い出すようになってくれて、嬉しかった。パパやママが愛を込めて”おかえり”って言える日が来たから。だから凪咲達には”ただいま”を、家族の愛言葉を大切にして欲しい」
この話は大人になった今でも忘れることは出来ない。私も昨日までは、一人の夜を過ごしていた。けれど、今日からは違う。五年もの間付き合っていた彼氏──勇心君と婚約することになったのだ。そして、同居生活始まりの日でもある。
早速、勇心君の待つ我が家へと足を運ぶ。そして、愛を込めてこう言うの。
「ただいま」
と。
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