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 ──あたしとそっくり同じ、もうひとり。  真央(まお)には一卵性双生児の妹がいた。  まるで鏡の中の自分のようだ。同じ遺伝子、同じ顔、同じ長さの髪、洋服の色だけが見分ける方法だと認識されている。  しかし実態は違っていた。  妹の未央(みお)はおとなしくて引っ込み思案だ。積極的で自己主張の強い真央とはまったく似ていない。  似ていない、のにも関わらず、皆が一様に「そっくり!」と口にする。いったい二人の何がその目に映っているというのか。  真央と未央のことなど、所詮誰も見てはいないのだろう。結局は表面だけに過ぎないのだ。顔にしても、作りは同じでも性格の出る表情はまるきり別なのだから。 「真央ちゃん、はいこれ。新しいお洋服よ」  母に渡されたワンピースは、いつも通り真央には水色で未央にはピンクだった。  文字通り同一の色違いということも多いが、今回はお揃いではないらしい。前にボタンの並んだ水色と、レースで飾られたピンク。 「ピンクがいい! 今度はあたしがピンク着るの! ね? いいよね、未央! いっつもピンクなんだから!」 「う、うん──」  未央が手にした服を掴んで我が物にしようとした真央は、顔をしかめた母に叱られてしまった。 「ピンクは未央ちゃんよ。真央ちゃんには水色の方が似合うから。……もう三年生なんだから我儘ばっかり言わないで」  何故勝手に決めつけるのか。真央はピンクが好きなのに。  幼稚園の頃から何一つ変わらない。可愛くて目を惹かれるものは、すべて未央に行ってしまうのだ。  水色は真央が、つまりピンクは未央の方が「似合う」ということだろうが、なのに何を言っているのか理解できない。  ──だって、いっつもみんなそう言うじゃない。「そっくりおんなじね」って! 意味わかんない!
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