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「ねえ未央、今日も入れ替わりごっこしようよ! 家に着いたらあたしが未央で未央はあたし。わかった!?」
「……あ、うん。真央ちゃん」
学校帰りの真央の言葉に、未央が仕方なさそうに頷く。
それは真央のお気に入りの遊びだった。
未央になりたいわけではない。
けれどその時だけは、未央のピンクの服が真央のものになるのだ。いつも気が進まなさそうな妹の様子は、見ない振りで無視を決め込んでいた。
姉に対する不満があっても、未央は何ひとつ言葉にすることはない。そのたび胸の内に収めて黙ってしまう。
双子の姉妹ということで同じクラスになったこともなかった。そしていくら見た目が瓜二つとはいえ、学校で二人が入れ替わるのは無理がある。
未央には真央の真似ができないためだ。「真央」の恰好をしても、未央は「未央」のまま。「真央ではない」と即露見してしまう。
真央は未央の真似など簡単にできるというのに。他人に入れ替わりが見破られるのは、必ず未央の方だった。
未央のクラスの友人の話なども、家でいろいろ訊いてはいた。そのため学校での入れ替わりも、きっと真央の方は上手く行くのではないか。
しかし、未央には絶対に不可能なのは容易に推測できた。
ただ、家なら遊びで済む。
幼稚園の頃から日常的に繰り返しており、母も面白がっている印象だった。
「ママ。これ食べていい……?」
「え? ええ、いいわよ。『未央』ちゃん、またごっこなの?」
水色のスカートの「真央」に、母が笑う。
──なんでこんなトロい子と一緒にされなきゃならないのよ。もう嫌! うんざりだわ。
真央が何も悪いことなどしていなくとも、「おとなしくていい子」の未央が常に隣にいるだけで比較される。「おとなしくない、いい子じゃない」と見做されてしまうのだ。
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