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 未央さえいなければ……。  いや、それも違う。未央がいなくなり、この家の娘が真央一人きりになったとしても問題解決にはならない。  きっと皆が言う筈だ。「未央ならそんなことはしない、おとなしいいい子だった」と。確実に。  そして買い与えられるのは「真央に似合う」水色の服。  真央が一番欲しいものは何だろう。  好きなように振る舞う自由。ありのままの言動で愛され、受け入れられる状況。  ……おそらくは無理だ。皆の記憶に「未央」がいる限り。同じ、だからこそ。  それならば、いっそ──。 「未央! 入れ替わりごっこしよ。ほら、服替えて!」  学校から帰宅して、真央は二人共同の私室でランドセルを下ろすなり妹に命令する。 「え? なんで……」 「なんでもいいじゃん!」  気が乗らない様子の未央を急かし、二人の着ていたものを交換した。  ──ホントに面倒な子ね! いちいち逆らってばっかりで。はっきり言いたいことも言えないくせに。 「ママ、未央が図書館行きたいんだって。一緒に行って来るね~」  レース飾りのピンクのワンピースを身に纏い、真央は玄関先からリビングルームでテレビを観ている母に声を掛けた。  彼女はお気に入りの番組を観ている間は決してこちらへ姿を見せることはない。 「はーい、遅くならないようにね」 「わかってる。じゃあ行って来まーす」  言葉だけ寄越した母に答えるなり、真央は隣の片割れに目を向けた。 「ほら、行くよ!」  小さな声で指示すると、前ボタンの水色ワンピース姿の「真央」の腕を掴んで引き、姉妹は二人で玄関ドアの外へ出る。  自宅マンションのすぐ近くには大きな道路の抜け道があった。  スピードを出している車が多いというのに、歩道にはガードレールもない。大人たちはことあるごとに、子どもに対して「あの道は気をつけなさい」と注意していたのだ。  図書館への近道ではあるのだが、真央も未央も普段はまず通ることはない。  ──危ないから、普段はね……。
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