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    ◇  ◇  ◇ 「よかった! 未央ちゃん! あなたが無事で本当によかった……」  病院で、急ぎ駆け付けたらしい母が真央を抱き締めて涙を溢れさせた。  真央は怪我一つしていない。  バランスを崩してその場に座り込んだのをショックのせいだと思われたらしく、気遣ってストレッチャーに寝かせてくれたのか。  地面に(うずくま)ったため、ワンピースが汚れてしまったかもしれない。それが何よりも気になっていた。その次に。 「真央、ちゃんは──」  怯えを装い呟いた真央の口を塞ぐように、母が娘の背中に回した腕にさらに力を込めた。 「真央ちゃんは……、天国に……」  母が絞り出す声はほとんど聞き取れない。  ああ、のだ。  両掌に未央の、……「真央」の背中の温もりが残っている気がする。  翻った水色のワンピース、急ブレーキの耳をつんざくような音。誰かの悲鳴、大勢のざわめき。  それらすべてが、遠い。  ──もうママは、……ううん、他の何もかもがあたしだけのもの。ピンクの可愛い服も、最初からあたしだけの。  真央の欲しい物を奪って行く妹はいなくなったのだから。  これからは真央が「未央」なのだ。おとなしくていい子の振りくらい、真央ならいくらでもできる。  だからもう──。
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